とあるビデオグラファーの備忘録的ブログ

ビデオグラファーsumizoonのブログ 一眼動画に関する機材や撮影方法を中心に情報を発信していきます。

グローバルシャッターはとっくに実用化されている

ほんとは、カメラにまつわる勘違いシリーズってのを書こうと思っていたのですが、グローバルシャッターについて書き出したらあまりのボリュームになってしまったので、これについて少し書いてみたいと思います。私なりの理解なので、他のサイトも調べてみることをお勧めします。

グローバルシャッターは実用化されている。

 デジカメスチルカメラ以外に目を向けるとグローバルシャッター搭載のイメージセンサはかなり前から実用化されています。そもそもCMOS以前のCCDはグローバルシャッターですし、CMOSでも産業用途にはグローバルシャッターのセンサが多く実用化されています。例えばSONYのマシンビジョン用イメージセンサ(産業用途)のPregiusシリーズはほぼ全ての品種でグローバルシャッターを搭載しています。(下図の1品種だけグローバルシャッターでは無い様です。)

 

https://3.bp.blogspot.com/-gJVgejlRj7E/XhbyaBLMEXI/AAAAAAAAcw4/nI8qLIudzo4gBho-wgrwgfblwVSfDMNFACLcBGAsYHQ/s1600/Sony-1.JPG

http://image-sensors-world.blogspot.com/2020/01/sony-announces-274um-gs-products-58um.html Image Snsors Worldより

ではなぜ、デジタルスチルカメラでCMOSセンサのグローバルシャッター機が実用されていないかというと、画質的に要求度が高いデジカメにはまだ搭載レベルにないから。という推測をしています。

CMOSセンサの読み出し方法

 少しここで一般的なCMOSセンサの話を私なりの理解で書いてみたいと思います。カメラの場合露光時にメカシャッターを使い、露光開始、露光終了を行って、その後に電子的に行走査(ローリング)を行って読み出しを行うのが一般です。ですが、動画の場合やサイレントシャッターの場合は行走査で露光開始→行走査で露光終了(≒読み出し)を行います。CMOSセンサの動画撮像時のイメージを下図に示します。※厳密にはもう少し複雑なことをしているよと、つっ込まれそうですが、基本的な動作を理解するには十分かと。

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 撮像素子には光が当たると電子が溜まるフォトダイオードと、読み出し部が存在しています。「電子シャッター」とは画素部(フォトダイオード部)に存在している電子一定電圧にリセットする動作です。そしてその電子は行走査にて行う「読み出し動作」を行うことで破壊読出しを行います。繰り返しになりますが、「読み出し動作」をCMOSセンサは時系列に行毎にしか画素データを読み出せません。※この読み出し行の並列度を増やすことで読み出しを高速化し、アンチディストーション読出しとうたっているのがα9や最新のRX100シリーズであるという理解です。なぜ同時に出来ないのか?というと説明が長くなりそうなのでやめときます。読出しのスループットやA/D変換時間の関係だという理解ですが、うまく説明できる自信は無いです。

 尚、電子シャッターと露光終了までの時間が露光時間という事になります。そして読み出しと読み出しの時間間隔がフレームレートとなります。そして、ローリング時間(幕速)というのは、この読み出し時間を指します。この方法だと撮像した絵には同時性が担保されませんので所謂ローリングシャッター歪みというものが発生します。

CMOSグローバルシャッターの実現方法

 じゃあ、順次読み出ししかできないCMOSセンサはどうやってグローバルシャッターを実現するかという疑問が沸きます。ここでは産業用途で一般的と思われる画素毎にメモリを配置するという技術を紹介します。

https://www.sony-semicon.co.jp/products/IS/industry/assets/images/products_image-sensor_industry_technology07.png

https://www.sony-semicon.co.jp/products/IS/industry/technology.html SONY HPより

 メモリと言うとDRAMとかNAND Flashとかを連想しますが、ここで言うメモリとはフォトダイオードに蓄えられた電子を一時的に退避するキャパシタ(静電容量素子)と理解しています。先ほど書いた通りCMOSセンサでは読み出しはローリングしか出来ない状態ですが、電子シャッター自体は実は同時に行うことが出来るはずです。その証拠に電子先幕シャッターというものが存在しています。これは先ほどの図の青線をほぼ同時刻に実行するというものです。正確には後幕メカシャッターの走査速度に合わせているはず。

 そしてフォトダイオードに溜まった電子をキャパシタに退避することも同時に行うことができるはずです。

 つまり下図のようなイメージです。

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 電子シャッターとフォトダイオードからメモリへの転送が一括に出来れば、その蓄えられたメモリ内容は真の同時性を持った撮像データという事になります。そして転送後にフォトダイオードとメモリの間の接続を遮断すれば、メモリ内のデータ(電荷量)を、通常の行毎の順次読み出しで行えば良いということになります。

 これでめでたくグローバルシャッターが実現できます。(いや、そんな簡単なものじゃないはずですけど。。)ですが、フォトダイオードに溜まった電子を一時的に蓄えるための素子がこの手法だと絶対に必要になるわけです。

 本来このキャパシタを配置するために、フォトダイオードに割り当てる面積を削ってしまうことになります。また、容量素子に光が当たる事で変な電子が励起されることが起こりえるというのが理系の人ならすぐに思いつくと思います。多分そうなりにくい構造にはしてるんでしょうけど、この方法だとデメリットは必ず存在すると理解しています。

 つまり画質を犠牲にしてもグローバルシャッターを搭載しないと商売にならないような、産業など一部の分野でしか適用していないという事なのではないかと私は思っています。

 このPregiusシリーズのグローバルシャッター搭載APS-Cサイズがラインナップされた際に、ついにグローバルシャッターが載る!と歓喜のコメントが多かった記憶がありますが、2020年1月現在、未だそんなデジカメは発売されていません。つまり、画質を犠牲にしてまでデジカメにはグローバルシャッターは搭載出来ない。そういうことなのではないかと。。。

 

グローバルシャッターを実現しようとしたBlackmagic URSA Mini4.6K

2015年4月13日にラスベガスのNABショーで発表されたURSA Mini4.6Kは私たちを大いに興奮させた内容でした。4.6Kセンサという高解像度で15STOP 60p撮影が可能でローリングシャッターとグローバルシャッター(30p)を切り替え可能というものでした。

www.blackmagicdesign.com

そしてそれは約一年後に下記のアナウンスと共に機能削除されることになりました。

過去6ヶ月間、Blackmagic Designのエンジニアたちは、これらの問題の解決に尽力してきた。しかし、そのグローバルシャッターの性能は、Blackmagic Design がお客様へ提供したいと願う高品質なものではなかった。そのため、これらのカメラからグローバルシャッターの機能を外して出荷に踏み切ることを決断した。

www.blackmagicdesign.com

 これに関してはグローバルシャッターの画質はBlackmagicの出荷レベルに達しなかったという理解をしています。もしかしたら機能的な問題なのかもしれませんけど、品質という書き方からして画質という理解をしています。

 

グローバルシャッターをアピールしたF55

私の記憶が確かなら、2013年あたりについにグローバルシャッターの時代が来た!と話題になったのがこのF55です。「イメージフレームスキャン」という書き方をしていますが、紛れもないグローバルシャッター機能です。そしてSONYの公式ページでも大々的にその機能をアピールしているページがあった様に記憶しています。

 

www.sony.jp

ところが、その記憶にあるページが探しても見当たらないのです。(記憶違いの可能性もあるけど)なんとなく今F55のページを見るとトーンダウンしている様に見えるのです。そして、その後のSONYのシネマカメラにこの「イメージフレームスキャン」機能は搭載されていません。

グローバルシャッターがデジカメに搭載される日は来るのか?

 搭載してもその時点のグローバルシャッター無しのセンサの同等画質を達成する技術が確立されれたら、「その日」は来るのだと思っています。

 そして、それはいつになるのかは素人の私には想像もつきませんが、海外のサイトを見ているとそんなに遠い将来ではないのではないかと思っています。数年以内には搭載されたらいいなと思っています。完全に希望的観測ですけどね。海外のサイトを調べるとやたらグローバルシャッターの技術紹介が目立ちますし、この分野の研究開発はかなり活発化しているように思えます。

 そして、その日を境にデジカメからメカシャッターが消えていくという事になります。メカシャッターがなければ歪みの無いサイレントシャッターができるのがユーザーの大きなメリットになります。動画を撮影している様な状態でスチルが撮れるという未来になりますが、これはカメラボディから完全にメカ的要素が無くなることを指しています。

 シャッターは一眼カメラ(ボディ)に残された最大最後のメカ要素です(他にボディ内手ぶれ補正もありますが)。コストが安くなるメリットやサイレント撮影などのユーザーメリットも大きいですが、海外メーカーの参入障壁はかなり低くなると思いますので一気に国内カメラメーカーの立場が弱くなる可能性もあるのではないかと思います。

 思えば日本がビデオやDVDで世界を席巻していたのは、メカ要素が大きかったからであって、その要素が無い電子機器はコモディティ化が一気に進んで一気に日本メーカーが淘汰される可能性があるかなと思っています。まぁそうなったらそれもアリか。それくらいグローバルシャッターはデジカメにとっての「諸刃の剣」なのではないかと思っています。

 

ではでは。

読み返すと、何のエントリなんだ?となりました。。。。