とあるビデオグラファーの備忘録的ブログ

ビデオグラファーsumizoonのブログ 一眼動画に関する機材や撮影方法を中心に情報を発信していきます。

QooCam8Kがやってきた

 VRカメラメーカーのKANDAO様からQooCam8Kをお借りできたので、このカメラについて紹介いたします。

 QooCam8Kは360°全天球が撮影可能な世界最小8Kカメラです。しかも8K30p10Bitと4K120fps撮影が可能というぶっ飛んだスペックを実現しています。

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QooCam8KはInterBEE2019で触って以来の再会です。

今回、私は以下のQooCam8Kの体験アンバサダーとしてQooCam8Kを試させて頂きました。(尚、現在は募集期間が終わっています)

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 てなわけで、前置きはここまでにして、ここではQooCam8Kを使った映像のワークフローを中心に記載したいと思います。

作例

まずは、現段階では一般公開前の私の撮影・編集した作例を貼っておきます。

QooCam DEMO

おそらく、VRカメラで撮ったとは思えない解像度だというのがお分かりだと思います。

スペック

・世界最小の8K360°VRカメラ

・8K30p10bit撮影可能

・4K120p撮影可能

・2.4インチタッチスクリーン搭載

・64GB内蔵ストレージ搭載(マイクロSDカードは256GBまでサポート)

・ジャイロによる強力な手振れ補正(ジンバル要らず)

まぁ、よくもこれを6万円台で発売したなという感想です。

www.kandaovr.com

詳細はオフィシャルサイトを参考にしてください。

サイズ感

 とりあえず、ウチにあるタスカムのPCMレコーダーと比べて見たらほぼ同じ大きさでした。(分かりにくいか。。)他の一般的なVRカメラと比べるとちょっと大きい感じです。

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ワークフロー

スマホを使う場合

 ほとんどの方はスマホを使うというのが良いと思います。とにかく編集が速いです。

 下記の公式動画が参考になりますが、8K急速編集モードの場合はプロキシファイル(編集用の軽量ファイル)をスマホに転送、プロキシファイルのまま編集、編集が終われば元素材をダウンロードの後書き出し。と言う流れになっています。

 一連の流れは基本的にユーザーは意識する事なく編集書き出しが出来ます。ただし、素材ファイルのファイルサイズが大きければ転送時間は結構かかります。

 尚、スマートフォンで書き出しが出来るのは4Kまでですが、VR素材を8Kで書き出す意味はほとんどありませんので、4Kまでと言う制限は特に問題ありません。

 ※8Kで撮る事は高解像度映像を得るには必要ですが、編集後の映像は画角にもよりますが、4Kが最適だと思います。

 下記の2つの公式動画はスマートフォンでの編集方法について紹介います。

QooCam 8K | 映像編集できる QooCam App の使い方

 先に書いたプロキシ編集についても触れています。

QooCam 8K | 8K 急速編集

 

 尚、編集のやり方に関しては、基本的には初代QooCamと同じなので、私が以前紹介した下記初代QooCamのレビュー映像の、4:40からの部分を参考にしていただけると幸いです。

VRカメラQooCamが楽しすぎた件

PCを使う場合

 PCを使うメリットはお気に入りのソフトを使うことが出来る点につきます。ただし、基本はお手軽に高画質と言うのがこの製品のウリだと思いますので、PCパワーが結構必要な以下のワークフローは万人にオススメ出来るものではありません。あしからず。

 てなわけで、私のPCでのワークフローを紹介いたします。ややこしいですが、それなりの意図があります。

①8K30p10bit撮影

 ほとんどの人は10bitの撮影は必要ないと思います。QooCamの撮って出しはRec709ガンマなはずですので、10bit撮影が出来るからと言って基本的に本格的なカラーグレーディングには不向きです。ですが、8bitでグレーディングするよりも10bitの方が輝度、色差情報は4倍なので限界パフォーマンスを使い切ろうという、私を含めて奇特な人は10bitにする方が後悔しないと思います。(編集が重いという後悔は生じるかもしれませんので、自分の編集環境を鑑みて設定することをお勧めします。)

 初めは8Bit撮影、10Bit撮影両方を試してみて10Bitの意味を感じる事ができる方だけ10Bit撮影することをお勧めします。

②QooCam STUDIOにてステッチングする。

PCでQooCam8Kの素材を編集するスタート地点はQooCamStudioです。ここではステッチングの手順について記載します。

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素の素材はこの様にステッチングされていません。

 QooCamStudioはこの↑の魚眼映像を↓の様な「エクイレクタングラー」と呼ばれる一般的なVRのフォーマットに変換するステッチング処理します。

 さらにファイルに埋め込まれているジャイロの情報から手振れ補正を行うために、Full StabilizationをONにします。これは必須だと思います。f:id:sumizoon:20200316224319p:plain

 素材を選んで、ADD TO QUEUEを押してRENDERのタブを押してRENDER画面に移ります。左にリストが表示されますので、選択を行いRENDER SELECTEDを押すか、RENDER ALLで全ての素材をステッチング&手振れ補正処理を行います。

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尚、QooCam Studioは私の環境では少し難があります。というのも大量のファイルをバッチ処理するとかなりの確率でソフトが異常終了します。おそらくメモリ関連のエラーだと思いますが、現段階(V1.5.1.4)ではバッチ処理するファイルを5つまでに限定して、複数回に分けるとエラー無く処理ができる事に気が付きました。異常終了されるという方は是非お試しください。たぶん、そのうち安定Verがリリースされると思いますが。。

③DaVinci Resolveにてカラーグレーディングする。(8K30p8Bit MP4書き出し)

 まぁ、ここはやりたい人だけやってください。そのまま④に移行してもらってよいかと思います。VR素材の色を弄りたいっていうコアな人は少ないと思いますので。。。

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フリー版のDaVinciでも出来るはずですが、一応有償版でカラグレしています。

 一応、DaVinciを使ってカラグレしたいという方向けにちょっとだけ書いておきますと、プロジェクト設定は3840x1920にします。元の素材は7680x3840の2:1素材ですが、7680x3840のプロジェクトでカラグレする必要はありません。なんならもっと低くてもOKですが、2:1のアスペクト比にしてください。

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 カラグレのお作法に関しては本題から外れますので割愛しますが、書き出しの方法はちょっと落とし穴があります。

 一応、この時点までは8Kの解像度を保ちたいので、ソース解像度でレンダーに✓を入れます。これで書き出しは8Kとなりますが、QuickTimeは8K対応していませんのでMP4として書き出します。また、この後のワークフローを考えて、クリップを個別に出力してソース名を維持します。

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書き出し設定。素材毎に別ファイルとして書き出す

 なんの事かわからん人はこの節は「③DaVinci Resolveにてカラーグレーディングする。」は完全にすっとばしてください。

 私は、このフローで書き出したものをFCPXで最終的に編集しています。

④FCPXやDaVinciで動画編集する

・FCPXを使う理由

 なぜ、DaVinciでVR編集をしないのか?と言われそうですが、DaVinciはグリグリとVR素材を編集する「リフレーム編集」が今のところ簡単には出来ないからです。Fusion使って「あれこれ」すれば出来るはずですが。。。

 ちなみにDaVinciでも下記FCPXと同等の簡単編集をするためのOpenFXプラグインReframe360」を入れれば簡単に編集は出来るのですが、今のところちょっと問題があるので今回はFCPXで編集を行いました。

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FCPXだと簡単にVR編集が出来る

・プロジェクト設定

 先にも少し触れましたが、いわゆる視点を編集者側で変更するタイプの映像を作る場合は最終の解像度は8Kである必要は全く無いです。(8Kで撮る意味は大いにあります。誤解の無きよう。)と言うのもVRカメラの8Kと言うのは360°の映像が8Kであって、画角を絞った場合は8Kの解像度よりも落ちるためです。

 ここではFCPXでの編集時のプロジェクト設定を示します。いわゆる16:9の動画を作りたい場合は3840x2160でプロジェクトを作成して編集を開始します。

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・プロキシメディアの作成

 素材を読み込んだら、下図の様に、必ずプロキシメディアの作成をした方が良いです。8K素材は流石に元素材のまま編集するのは厳しいですが、プロキシメディアを作ればサクサク編集が出来ます。

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 通常の編集時は下記の様にプロキシで進めます。

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 あとは編集をするだけですが、何点か注意点があります。

・360°プロジェクションモードを設定する。

 読み込んだ素材は360°素材として認識させる必要があります。QooCamSTUDIOはエクイレクタングラーと呼ばれるフォーマットで出力されるので、このフォーマットで読み込む必要があります。素材クリップを選択して360°プロジェクションモードを「エクイレクタングラー」に設定します。

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クリップを読み込んだ初期状態

すると、下記の様に適正な画角となります。

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エクイレクタングラーに設定すると適性な映像となる

・方向パラメータを設定する

 さらにクリップごとの編集画面(インスペクタ)で方向、画角を変更します。

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 マッピングは基本的にタイニープラネットを選択しますが、標準でも構いません。編集したい映像に合わせていろいろお試しください。

 タイニープラネットの場合、画角はチルトは90°、パンは180°もしくは0°、ロールは0°、視野を180°にして編集を始めるとわかりやすいかと思います。

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これでグリグリ出来る

 作例では、気に入ったクリップ繋いで、このパラメータをキーフレームを打って、動的に変化させているだけです。キーフレームの打ち方はネット上にいくらでもあると思いますのでそちらを参考にして頂けたらと思いますが、基本的にこの画面の◇マークを任意のタイミングで押して、パラメータを変えては◇を押す事を繰り返せば動的なキーフレームが打てます。

・書き出し

 モロモロの編集が終わればあとは書き出すだけですが、必ずメディアを「最適化/オリジナル」に戻しておきましょう。じゃないと画質がダメダメになります。

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書き出す前に、表示を標準にします。

 でもって、「ファイル」→「共有」から適当なフォーマットで書き出します。

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書き出し設定

こうやって作った映像が下記の動画となります。

8K10Bitのバケモノがやってきた QooCam8K作例

使いこなしのポイント

ホワイトバランスはマニュアルで設定する。

 普通使う分にはどうでもいい内容かもしれません。ギリギリまでこのカメラのパフォーマンスを出すために私はこうした、というだけの話です。

 日中屋外での撮影では基本的には太陽光、曇りのいずれかで撮影します。室内であれば光源を判断してタングステン、蛍光灯のいずれかに設定します。

 というのも、このカメラのオートホワイトバランスは結構優秀ではあるのですが、ごくまれに前面、後面側で色味が微妙に変わる事があります。多分、ほとんどの方は気にならないレベルですし、他のVRカメラも含めて普通にある事だと思います。

 ですが、マニュアルホワイトバランスで設定すると、この微妙にステッチ部で生じる色の段差を最小限に抑えることが出来る事に気が付きました。(ほぼ認識できないレベルになると思います)

 それ以降、私は出来うる限りはマニュアルホワイトバランスで撮影する事にしています。

カスタムメニュー登録を活用する

 これは、上記の話とも関連します。QooCam8Kはスチル、動画のモードを含めて4つの撮影モードをカスタム登録することができます。

 なので、

・撮影モード1:8k30p(WB:太陽光)

・撮影モード2:4k120p(WB:太陽光)

・撮影モード3:8k30p(WB:オート)

・撮影モード4:スチルDNG8(WB:オート)

などの様に複数の設定を簡単に切り替えて撮影する事が出来ます。

撮れ高を上げるためにこのカスタム登録機能を使ってみては如何でしょうか。

ファームアップをこまめにする。

 これを使いこなしのポイントに記載するかってのは微妙な話ですが。。。とにかくQooCamのファームアップは現段階ではかなり頻繁に行われています。

 例えば、少し前までは本体のスリープ機能、自動電源OFF機能は実装されていませんでしたし、更に初期ファームのバージョンはバッテリーの消耗も激しかったです。

 そういう意味で、このQooCam8Kは日々進化するカメラです。

 必ず定期的にでも良いのでファームアップをした方が良いです。

 ファームアップスマホでQooCam APPを立ち上げると、通知画面が出てくるのですぐにわかります。

露出の決定するレンズを気にする。

 これに関してはまだ100%の確証はないですが一応書きます。

 ほとんどの方は気にしなくても良いと思いますが、私はちょっとコレを少し気にして撮る様にしています。

 これはちょっとややこしい話ですが、このカメラは前面、後面でのトータルで露出を決定しているわけでは無さそうです。

 前面カメラと後面カメラの両方にLEDライトなどの強いライトを当てて見ると露出が変化するのは前面側だと分かります。つまり背面側では露出を決定していない事を考えると、背面などに太陽が入るようなシチュエーションだと自ずと白飛びし易くなるという結果になります。どうせ360°撮れてるんだしカメラの向きは気にしないというのも手ですが、少し意識すると露出のアルゴリズムをおさえた撮影が可能になるかと思います。

 

QooCam8Kを使った感想

画質に関して

 画質に関してはコンシューマ―レベルのVR機としては、このカメラ以上のものは無いと思います。

 スペックを見ても分かる様に8Kの解像度のファイルから得られる映像は従来のVR機の比ではないです。特に私が使っていた初代QooCamと比べると「こんなにも違うか。。。」という印象です。

 以下は初代QooCamで撮影した映像ですが、その解像感の違いは参考になると思います。

QooCamで撮る大阪ローカルの夏

 ただし、ラージセンサ―を積んだミラーレス一眼動画に比べると夜間の映像はノイジーになります。(当たり前ですが)

 都会の映像であれば問題なく綺麗に撮れると思いますが、照度が低い中の映像ではISO感度を上げることになり必然的にノイジーになります。ただし、スマホと連携すればマニュアル露出が可能ですので、うまく使うと夜間でもクオリティが上げられると思いますので、そこらへんはいろいろ試してみるとよいと思います。

 とにかく、VRカメラを使用している多くの人は、解像度が足りない事による不満が多かったと思います。従来のVRカメラの様にVR4Kが撮れるカメラであっても、リフレームして画角を狭めてしまえば、その映像はFHD以下、下手をするとSD画質以下にまで下がってしまいます。

 以前にも書きましたが、VRカメラを高解像度の映像として見せるためには4Kでは全然足らないのです。

 そこへ来て一気に4倍の情報量を持つQooCam8Kは高解像度のVRを撮りたい人にとっては「うってつけのカメラ」だと思います。とにかく、ある程度画角を狭めても解像感が高く流石に8Kカメラといった印象です。

 編集環境について

スマホを使った編集

 このカメラはやはりスマホで編集するのが王道だと思います。そして、スマホを使用したプロキシ編集が意識せず出来る点に関しては、非常に良くできているという印象です。実際にスマホだけでも4Kの高解像の映像としてリフレームすることが出来ます。

 10Bitでのカラーグレーディングなどという変な欲を出さなければスマホで十分だと思います。実際iPhone8であればかなりサクサクに編集ができることを確認しました。

 というか、なぜPCよりも速く編集できるの?という気もしますが、そこはプロキシ編集というエンドユーザーを意識させない上手い手法を使っているからだと思います。

PCを使った編集

 一方PCを使った編集は8K素材を扱うにはまだハードルが結構高いと思います。そもそも8K10Bitの素材なので4K10Bitでも扱うのが厳しいという方はPCでの編集を諦めた方が良いです。(まぁ実際にはプロキシ編集する事でどうにかなることが大半ですが、そこらへんの作法がよく分からないという方は、PCでの編集は避けた方が良いです)

 また、純正のQooCamStudioの8K30p10Bit素材からステッチ処理の時間は概ね5fps程度です。(Core i9 9900K/RTX2060Super使用時)ここの処理がちょっとかかるので、もう少し高速化されるといいなと思います。今の状態だと1分の動画もステッチ処理に6分かかる計算です。

最後に

 このカメラはかなりのファームアップを重ねてパワーアップしてきていますので、ステッチ処理をするソフトのQooCamStudioも含めて改善がなされるものと期待しています。

 ネットでは初めはかなり電池が持たないという書き込みを目にしましたが、スリープモードを併用すると結構電池の持ちも悪くない印象です。

 このカメラはとにかく、8Kというぶっとんだ解像度を実現している、今現在唯一のコンシューマーVRです。なので、編集時に少々画角を狭めても解像度を保つことから、従来では絵にならなかったフレーミングでも絵になる可能性はぐっと広まったと感じます。

 従来のVRカメラの画質では満足できなかったという方は、試す価値があるカメラだと思います。