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LUMIX S5でのBlackmagic RAW(.braw)収録についてとBMPCCが撮影後にISO感度を変更できる理由について考える

LUMIX S5でしばらくBRAWを使ってきました。まだまだミラーレスカメラでVideo Assist を使ってBlackmagicRAW(.braw)撮った作例もほぼ無いですし、また.braw撮影する際の情報ってのはほとんど無い状態です。

今回はLUMIX S5での.braw撮影についての情報を書いてみたいと思います。S5で言及した部分は.brawに限らずProResRAWにも当てはまります。
予めお断りいたしますが、BMPCCのくだりは私なりの解釈で書いてますので間違ったことを書いていたらご指摘頂ければ幸いです。

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LUMIX S5のRAW撮影時ISO最低感度とダイナミックレンジについて

まずLUMIX S5で.braw収録する場合はISOの最低感度は640となります。拡張感度設定でISO320に設定は可能ですが、ハイライトのレンジが1EV落ちる状態となりますので結局同じ被写体でISO640で撮ってもISO320で撮ってもクリップするハイライトレベルは同じという認識でいます。

なので明るい被写体の場合は基本的には最低感度であるISO640で撮影する事がメインになるかと思います。

余談ですが、LUMIX S5(LUMIX S1Hも同様)の場合は0EVからハイライト側は+6.3EVまでのレンジがあります。またシャドー側は-8EVとなりトータルレンジは14.3EV(STOP)となります。シャドー側はSN=0dBになる状態からハイライトクリップまでをSTOPとしてレンジ規定する事が(各種ベンチマークでは)多いので実際には14.3STOPまでのレンジが無いかもしれませんが、少なくとも-7EV程度までは信号レベルは確認できるので概ね13.3STOP程度のレンジになるかと思います。

Dual ISOも有効

当然、RAW撮影時でもDual Native ISOも有効です。この切り替えは基本的に自動で、ISO4000から下は低ゲイン設定、ISO4000以上は高ゲイン設定となります。ISO3200よりもISO4000の方がノイズが少なく画がクリーンですのでISO3200を使うならば迷いなくISO4000を使うべきです。

LUMIX S5の.brawは後処理でISOは動かせないが、その理由を考えてみる

なぜBMPCCはISOがポスト処理で変えられるのか

まず、ネイティブの.brawを記録できるBMPCCについて、同カメラがISOが後で動かせる原理について考えてみたいと思います。

Blackmagic DesignのBMPCCシリーズ(URSAもできるはずです)で撮影した.brawは後処理でISO感度を変更することが可能です。低ゲイン側撮影データはISO100~ISO1000の間でカメラ設定と全く同じ動きをエミュレートできるはずです。同様に高ゲイン設定では1250~6400の間で自由にRAW現像時に変更が可能です。

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一方でLUMIX SシリーズやEVA1の様なVideo Assist連携で撮影した.brawではISO感度はポスト処理で変更することが出来ません。

でもそこで単純に「BMPCCスゲー」と言う前に少し冷静になって考えてみましょう。

そもそも、スチルをやっている方にとっては後処理でISO設定を弄れること自体が不思議に思えると思います。ではなぜBMPCCがポスト処理でISO感度を変更できるのかという点に関して私なりの解釈を書きたいと思います。

ヒントはBlackmagicの公式ドキュメントにも含まれている下記のダイナミックレンジのグラフです。まずはDual ISOの低ゲイン側の設定ISO100~ISO1000までに着目してみましょう

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BMPCC4Kのダイナミックレンジ

https://vook.vc/n/2102

これを見てピンとくる人は少ないと思いますが私の解釈を書きます。縦軸は絶対照度(センサ面照度)と解釈します。すると

 

ISO100の場合は+3.5EVでハイライトクリップする

ISO200の場合は+4.5EVでハイライトクリップする

ISO400の場合は+5.5EVでハイライトクリップする

ISO800の場合は+6.5EVでハイライトクリップする

 

つまり同一の明るさ、F値を撮影していてISOだけを変えた場合ハイライトクリップするまでの明るさはISO100だろうがISO1000だろうが同じということを示しています。

どういう事かというと、ISO800で白飛びする被写体(ISO800時の+6.5オーバーの被写体)はISO100に感度設定してもやはり同じように白飛びするという事をグラフは示しています。これは多くの人にとっては少し不思議な挙動だと思います。
通常はISO800で白飛びしている被写体はISOを下げるに伴って白飛びが解消されるカメラが多い(ほぼ全てのカメラ)ですが、このグラフを見る限りは低感度にしていってもハイライトのレンジが狭まっているだけなので白飛びは解消されない事になります。
トータルレンジ(スペック上は13.1STOP)はISO100でもISO1000でも同じ。一方で0EVからハイライト側、シャドー側のレンジが変化する。

と言ったものです。


これの意味するところは、ISO100~ISO1000のセンサーの駆動は全て同じである。という事に帰着します(推測ですけど恐らく正しいと思う)。異なるのはセンサで得られたデータの解釈であって、後処理のガンマ補正の部分で適用ガンマだけがISO感度設定に伴って変化させる動きなはずです。つまりデジタルゲインのみでISO感度を変化させている事を意味します。

同じようにDual ISOの高ゲイン側の設定を見ていきましょう。ISO1250~ISO6400まではトータルレンジ(スペック上は12.3STOP)で先ほどの低ゲイン側と同じように感度をあげると見かけのハイライトクリップまでの余裕が伸びていきます。これは見方を変えると、「ISO1250設定では-2EVの被写体」を「ISO5000では0EV」としてガンマカーブを引き直しているにすぎません。結果的にハイライト側のクリップレベルが+2EV伸びるという動きに相当します。

つまり

ISO100~ISO1000は同じセンサ駆動(ガンマカーブの当て方だけが違う)

ISO1250~ISO6400は同じセンサ駆動(ガンマカーブの当て方だけが違う)

だと思われます。

つまりISO100で撮影した.brawに埋め込まれたメタデータを基にISO1000に相当するガンマカーブを当てるという事自体はDaVinci上でなんら問題なく行える事になります。そもそもISO100もISO1000で撮った映像も設定は異なってても当てられているガンマカーブだけが異なるだけなので実効的な感度は同じ。つまりポスト処理でなんぼでもISO100~ISO1000までを変更可能な事を意味します。

見方を変えるとハイライトクリップまでのポイントが変わらないので、「ハイライトが当たったからISO400からISO100に変更する」といった操作は「意味がない」と言えます。そもそもハイライトを見て露出(ISO)を変更しても意味が無いのです。ここがBMPCCの露出設定の難しい所だと思います。

ISO6400以降はどうなっているのかというと、少しややこしい所なので詳細は割愛しますが、おそらくセンサがアナログゲインで感度を変更しているため、この領域ではポスト処理ではカメラ設定を完全にエミュレート出来ないはずです。なのでISO3200で撮影したデータはISO8000に設定できないはずです。

もう少し分かりやすく書くと、ISO1000撮影でハイライトクリップした+6.3EVオーバーのポイントはポスト処理でISO100にした所でデータは戻ってきません。そして撮影時もそれは同じ事になります。

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BMPCC6Kのダイナミックレンジ

https://vook.vc/n/2102

BMPCCデータで少し実験

ちなみに少し実験です。BMPCCのデータをポスト処理で「ISO」で露出を変更するのと「露出」で変更した場合どうなるのかについて調べてみました。

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素材はISO3200で撮影されたもの。で、

①ISO1600にする設定する

②ISO3200のまま露出で-1に設定する

に違いが出るかですが、リニア現像をする場合においては両者は完璧に一致します。

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左:ISO3200撮影データをポスト処理で「ISO1600」に設定した場合

右:ISO3200撮影データをポスト処理で「露出-1」に設定した場合

なので基本的にはISOで変えようが露出で変えようが基本は同じです。この二枚のフレームを差分減算してみましたが全面ゼロデータとなりました。

※実はガンマをLiner以外に設定すると微妙に両者の結果は若干異なります。これは前述の様にISO毎に当てているガンマがリニアではない為に計算誤差が出ているためかもしれませんが詳細は不明です。

すこし裏付けとして実験してみたわけですが、私の推測が正しければISO100で撮影したデータとISO1000で撮影したデータは記録データは全く同一でメタデータだけが違うという動きをするのがBMPCCだと言う事になります。(あくまで推測の域をまだ超えてませんのでだれか検証して頂けると幸いです。というかBMPCC4Kは既に売却しちゃったんです。。。T T)

話をLUMIX S5に戻すと。。

一方でLUMIX S5はISO感度を、例えばある明るさの被写体においてF値/SSを固定したままISO3200からISO800に変えるとBMPCCの動きとは異なりハイライトまでの余裕は2EV広がります。つまりハイライトクリップしにくくなります。つまりセンサの動かし方そのものがISO800とISO3200で異なる事を示しています。言い方を変えると各感度の0EVを基準にハイライト側のレンジ6.3EVとシャドー側のレンジ8EVを常に保つ動きをします。(おそらくアナログ的にセンサのゲインが細かく変更され各感度に最適化される動き)

ゆっくり時間が取れる時にLUMIXの上記の様なグラフを書いてみたいと思いますが、LUMIXの場合は撮影時にハイライト基準でISO感度を設定しても事故にはなりません。繰り返しになりますがISO3200でハイライトクリップした場合ISO800まで下げればハイライトに2段の余裕が生まれ白飛びは解消されます。

間違いなくこの動きは後処理で完全再現できないものです。その証拠にミラーレスカメラのスチルRAWでISOを変更できる現像ソフトは無いはずです(仮に存在したとしても疑似的なものでボディのレンジ再現はできないはずです)。

ほぼ全てのカメラは撮影時のISO設定でレンジが決定されるからであってBMPCCの場合にそれが出来るのはISO設定に関する挙動が他のカメラとは思想が異なるためだと言う解釈をしています。

個人的にはBMPCCのデジタルゲインで当てるガンマを変える(データの解釈を変更する)。というやり方が撮影時にメリットをもたらすのかというと少し疑問ではあります。

確かに本体側で設定したものが完全再現できるというのは一部でメリットはあるのですが、各メディアも含めてデメリットを説明せずにISOが後から変えられると賞賛しているのも変な誤解を生みかねないので、注意をした方が良いかと思います。とはいえBMPCCはそこそこトータルレンジが広いので露出設定させ間違わなければBMPCCはカラーサイエンスも含め素晴らしいカメラなのは言うまでもありません。

では、LUMIXの.brawで露出を変えたい場合、どうするかというと(先にも書いた通り)単純に「露出」の項目となります。

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 これは一般のRAW現像と同じですし、スチルのRAW現像ソフトに慣れた人にとっては馴染みのあるパラメータだと思います。

ただし、撮影時に完全にハイライトクリップしたものはリカバーできないのはBMPCCと同じですが、素材がクリップさえしていなければこのパラメータで露出をほぼ完全に調整することが可能です。

下の一枚目は適正露出で撮影したもの。二枚目は適正露出を+3EV外して撮影したものを露出補正でリカバーしたものです。

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適正露出撮影

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適正露出を+3EV外して撮影(DaVinciの「露出」でリカバー)

RAWの最低感度640について

尚冒頭にLUMIX S5の.braw撮影時の最低感度に関して言及しましたが、RAWなのにISO100が使えないなんて?と思われる方も多いかもしれません。これはあくまでハイライト側に+6.3EVを確保する設計を行った結果、最低感度が640になるという解釈をしています。(尚、当たり前ですが拡張感度ISO320では+5.3EVでハイライトクリップします。).braw撮影においてもダイナミックレンジはLog撮影と同じ考え方が適用されているからです。

ハイライト側がクリップする絶対照度は.brawの640とスチルのISO100は同じですので実効的にはスチルガンマのISO100と解釈しても間違いないと思います。ここに関しては下記をご覧ください。

動画のガンマは標準照度よりも高い側にレンジを確保するのでスチルとは考えが異なります。一方ISO100が実現できるBMPCCでは代わりにハイライトレンジは4EV以下になる代償を払っています。

sumizoon.hatenablog.com

LUMIX S5の.braw撮影のハイライト側のレンジは+6.3ですが、ハイライトが+4EVに詰まったと見立てればISO100的な感覚で撮っても後処理の「露出」設定で十分適正な露出を得る事ができます。むしろその方がS/Nが高い映像を撮ることが可能ですので、スチルのETTR(Exposing to the Right)的な撮影に向くと思います。

大事なのはハイライトが飛んでいないか(クリップしていないか)を撮影時にしっかり確認して撮影することであって、それさえ守っていればRAW撮影の場合は如何様にも適正な露出に戻す事が可能である。と言う事ができますし、むしろ品質の高い映像が得られるものだと考えています。

まぁ、あんまり難しい事を考えるより撮影しよう

とまぁ色々書いてきたわけですが、.brawで撮影するといろいろ楽しいです。なにせ5.9Kの高解像度データが動きの軽いRAWコーデックでグレーディングできるからです。

ボタンを押しただけで綺麗に撮れるとは言いませんが、クオリティを上げるための素材は間違いなく撮ることが出来ます。たとえ適正露出を外したとしてもフルサイズセンサなりのレンジの広さでH.264/265よりも高いリカバリ耐性で強引にねじ伏せる事も可能です。(個人的にはこういった撮り方は好きじゃないですが)

下記は最近流行りのCinematic〇〇とは真逆にグレーディングした映像になりますが、RAWの場合は自由度が高いのでこういった遊び方も難なくこなす事が可能です。

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もちろん、ローコントラストにシネマティック〇〇の様に映像を作るのもお手のものです。

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てなわけで、RAWで撮ること自体は珍しくなくなってきたミラーレス映像界隈ですが、是非ご興味のある方は試してみては如何でしょうか。フルサイズで5.9K高解像度で.brawが撮れるというのはLUMIX S1H/S1/S5だけにあるアドバンテージです。(他メーカーのソリューションは4K止まり)

人と違う事をしてみたいという方にとってはうってつけの組み合わせだと思いますのでひねくれものの方は是非😅

筆者:SUMIZOON

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