とあるビデオグラファーの備忘録的ブログ

ビデオグラファーsumizoonのブログ 一眼動画に関する機材や撮影方法を中心に情報を発信していきます。

日経新聞の記事「ニコン、一眼レフカメラ開発から撤退 60年超の歴史に幕」に思う事

カメラ界隈で物議を醸した下記記事、センセーショナルなタイトルの「ニコン一眼レフカメラ開発から撤退 60年超の歴史に幕」について思うところをなるべく冷静なスタンスで書きたいと思います。

www.nikkei.com

というか、当初この記事に関してブログを書くのはあまりに馬鹿馬鹿しいので、こうしてここに文章を載せるのもどうかと思ったのですが、いろいろ考えるところがあるのでね。

日経の記事とニコンの発表

まずは日本経済新聞の記事のタイトルと、無料で閲覧できる部分の文章を引用したいと思います。

ニコン一眼レフカメラ開発から撤退 60年超の歴史に幕

ニコン一眼レフカメラの開発から撤退したことがわかった。1959年から60年以上にわたって一眼レフを手掛けプロの支持を集めてきたが、人工知能(AI)や画像処理技術を導入し市場で主流になりつつあるミラーレスカメラの開発に集中する。高精細な画質を備えたスマートフォンがカメラ市場を侵食しつつある。プロやコアなファン向けにスマホにはない機能を充実させてカメラの生き残りを目指す。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC219V60R20C22A6000000/

この記事の捉え方は、実に様々ですが、「カメラに詳しい人」と、そもそも「一眼レフが何なのかをわかっていない人」とではかなり捉え方が違います。

てなわけで、日経の記事掲載のTwitterの反応をざっくり2つのパターンで見てみます。

カメラの事情に詳しい人の反応

前者は

・そりゃミラーレスに移行するんだから記事は不思議はない
・この記事は誤解を生むので問題だ
・これも時代よねレフ機がなくなるのは寂しい

という意見が多い。

カメラに詳しくない(詳しくなさそうな)人の反応

ニコン カメラやめるのか!
・マジか~日本の製造業オワタ
・やはりiPhoneは勝てなかったか!
・カメラやめたら何やるの?
・ぴえん

確かにカメラ市場はスマホに押されていていますが、ちょっとこの反応は記事が生んだ誤解を多分に含んでいます。ちなみに、日経の記事をカメラに詳しくない職場の人に、同タイトルを見せたら「へ~、ニコンてカメラやめるんすね」と言われました。つまり簡単に誤解を生む記事というのは間違いありません。

尚、日経の記事の公開後に、今度は(株)ニコンから下記の文章がHPに掲載されました。

本日の一部報道について

本日、一部報道機関より、当社が一眼レフカメラ開発から撤退という報道がなされましたが、憶測によるもので、当社が発表したものではありません。

デジタル一眼レフカメラの生産、販売、サポートは継続しており、ご愛用のお客様には引き続きご安心してご利用頂ければと思います。

そして、このコメントが出た後の反応は

・日経けしからん!
飛ばし記事だったか!
誤報でよかった!
・正式にニコンが否定してるんだから日経謝れ!

というものが多かった様に思えます。でも、私はそれらとはすこし違う見方をしています。

ニコンのコメントは日経新聞の記事内容を否定していない

まずニコンのコメント、「憶測によるもので、当社が発表したものではありません」ですが、ここは発表が会社として正式にしたものでは無いという点に関しては明確に否定しています。とは言え明確に記事を否定しているのはここだけで、うがった見方をすると、役員や関係者が報道機関に一眼レフ開発停止をリークした可能性もあるかと思っています。企業の重大な発表前の正式発表前の観測気球的なものとしてよく使われる手法という認識だからです。

日経の記事をもう一度見てみましょう。記事は「一眼レフカメラの開発」をやめるという事を書いています。つまり「ニコン一眼レフカメラの新規開発を行わなくなる」という文章です。

それに対してニコンのコメントは「デジタル一眼レフカメラの生産、販売、サポートは継続します」というものです。つまり一眼レフカメラの開発を継続するか否かに関してはコメントを避けている状態です。なので、日経の話の根幹に関しては否定をしていない状態という認識を私はしています。話の出所がニコンでは無いと否定するのであれば、ここの部分も否定してほしかったという人もいるかと思います。

「生産」とは製品を文字通り製造する事を際し、「販売」はそれらを売ることです。もちろんメンテナンスなどのサポートは今後も継続されるでしょう。その意思はこの文章からもはっきりわかります。

とは言え、日経の記事を完全に否定するには至っていないというのが私の思うところです。でもねぇ、日経のこのタイトルはどうかと思うんですよね。。。。

なぜ日経のタイトルに問題を感じるのか

ニコン一眼レフカメラ開発から撤退 60年超の歴史に幕」

この文章には大きく2つのネガティブ要素があります。一つは「60年超の歴史に幕」というもので、いかにも祖業を失ったかの様な書き方です。実際は一眼レフというものが進化してミラーレスへの移行が進んでいるのですが、一般の人にとってはそんなことは知らんでしょう。その背景を匂わせる単語、文章は日経の記事のタイトルにはありません。

もう一つのネガティブ要素は「撤退」という言葉。他社との競争に負けた(負けそうな)時に使われるような単語ですが、かりにニコンが一眼レフの開発を今後やめることになったとしても「撤退」という言葉使いにはかなり違和感があります。

世の中がレコードプレーヤからCDに移行した際や、VHSビデオデッキがDVD/HDDレコーダーに移行した際の事を考えてみます。ビデオデッキの新規開発をやめた場合に「パナソニック、ビデオデッキから撤退!30年の歴史に幕」と書かれたら少しありませんかね?「ふーん、何をセンセーショナルな。。。。そりゃ普通やめるやろ」となりませんかね?そうなら「終了」とか「ミラーレスへ統合」とかもう少し書き方がある気がする。なのでこの記事のタイトルにはかなり悪意を感じておられる方が多いと思います。

そして、物議を醸した最大の理由は、一般の人にとっては一眼レフというものが理解されていない中でこのタイトルを選んだ事だと思います。

知らない人にとっては、デカいレンズついてるカメラは全部「一眼レフ」

一眼レフとビデオデッキの違いはその世間の認知度の違いにあります。まず、私が思う「一眼を使っていない人」の感覚はきっと、下記の3つは全て一眼レフであると思うのです。(ちと極端かもしれんけどきっと外れていないわな。。。)

NikonのHPより

左から「ミラーレス一眼」「一眼レフ(デジタル、フィルム)」「レンズ一体型デジタルカメラ」です。もちろん、現在の主力はミラーレス一眼です。でも多分、デカいレンズついていたら一般の方から見たらこれらは全て「一眼レフ」なんですよ。

仮に今回の報道が真実だったとしても、新規の開発をやめるのは真ん中の一眼レフの事を指します。そして、ニコン、キャノン、ソニーのデジタル一眼トップメーカー3社は最近は一眼レフの新機種を出していません。つうかSONYに至っては最後のレフ機(正確にはトランスルーセント機だけど)α99IIは2016年発売で、それ以降は事実上新規開発をすでに停止しています。キヤノンはフルサイズに限ると2020年2月の1DX MarkIII以降は新型のレフ機を発表していません。

CIPAの統計を少し調べたところ2022年のCIPA参加企業における一眼レフとミラーレスの総出荷金額は下記の通りです。

一眼レフ:912億円

ミラーレス一眼:3246億円

https://www.cipa.jp/stats/documents/common/cr300.pdf デジタルカメラの総出荷より

カメラを趣味や仕事にしてる人だったら肌で感じていると思いますが、数年前にミラーレス一眼の出荷台数は一眼レフを抜いています。金額ベースでは2019年に逆転している状態でレフ機は間違いなく終息に向かっていると言えます。各メーカーもそれに備えて旧一眼レフのレンズがミラーレス一眼のシステムでも使い続けられるように純正のマウントアダプターを用意しています。

遅かれ早かれ来る一眼レフ開発の終了

技術の進歩は恐ろしいもので、ミラーレス一眼が一眼レフを完全に置き換える存在になりました。もちろん、光学ファインダーの魅力を考えると一眼レフになくなって欲しくはないのですが、新しい「一眼」を買うのだったら今後「一眼レフ」ではなく「ミラーレス一眼」にする人が大半だと思います。そうなると企業としてもリソースはミラーレス一眼側にシフトせざるを得ません。(既にPENTAX以外は完全にシフトしているはずですし、一眼レフの新機種が発表される可能性は正直低いと思う)
一部のニッチな層に対しては一眼レフの需要は残ると思いますし、現代でもフィルムカメラやレコードを好む人は市場規模としては小さいものの需要は一定数あります。でも一眼ビジネスは完全にミラーレスに移行していますので、今後、一眼レフの新機種が出るとしてもそれはカメラ製品の中心に来るものでは無いでしょう。

レフ機がなくなっていくのはちょっと寂しいけど、それは時代の流れなんだなと思います。

Z9はある意味レフ機を終わらせた存在として後世に語り継がれるニコンの名機となるのかもしれません。

 

筆者:SUMIZOON

Facebookグループ一眼動画部主宰 メンバー5000人目前

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