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ビデオグラファーsumizoonのブログ 一眼動画に関する機材や撮影方法を中心に情報を発信していきます。

S1H 孤高の変態カメラレビュー③撮影フォーマット編

S1Hの長期レビューの続き第3回目は撮影フォーマットについて書きたいと思います。

過去のレビューはこちら

尚、今回もサブチャンネルにアップした、切り出した動画を参考までに貼っておきます。


S1Hレビュー 3-1【ヘンタイの極み!! やたらと多い動画撮影フォーマット】

S1Hのドン引き撮影フォーマット

S1Hのスペック表から引用させて頂くと、通常撮影で使用できる撮影フォーマットは下記になります。もうわけわからんレベルの表になっています。

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通常撮影の撮影フォーマットリスト

しかも、これ、一行の中に10bit ALL-I/10bit LongGOP/8bit LongGOPを書かれていて場合によっては例えば4K30pだけで3つの記録フォーマットが有ります。

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FULL画角4K30pだけで6つの記録方式がある

また、この表は、PAL圏フォーマットも含んでいるのでかなり表が大きくなっていますが、NTSCだけでもかなりの数となります。

 

 で、これだけにとどまりません。↑の表はあくまで通常撮影モードだけで、いわゆる、可変フレームレート(バリアブルフレームレート)対応のフォーマットは別にあります。GHシリーズ(というかGH3からだと思います)では任意にフレームレートを調整できるバリアブルフレームレート撮影機能が備わっています。※ただし音声は録音されません。

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バリアブルフレームレート対応リスト

初心者の方は「どれ選んだらええのだ?」となる可能性があります。一眼で長年映像を撮っている人でさえドン引きのフォーマット数です。ですが冷静になって見ると必要なフォーマットが見えてきます。

 

正式なスペック表は下記をご覧ください。

panasonic.jp

撮影フォーマットの要素から必要なフォーマットを考える

撮影フォーマットの要素を分解してみると

「ファイルフォーマット」「システム周波数」「画角」「解像度」「フレームレート」「ビットレート」「クロマサンプリング方式/ビット数」となります。さらには「LongGOP/ALL-I(IPBによる時間方向圧縮の有無)」、「クロマサンプリング方式、ビット数」「コーデック(H.264/H.265)」といった要素になります。

 ※尚、下記に私が使用するフォーマットを参考までに記載していますが、全てのPC/編集環境において使用できるわけではありませんのでご注意ください。重要な撮影の前には必ず、使用するフォーマットでのテスト撮影&テスト編集をする事をお勧めします。

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通常メニューのフォーマット選択だけで7ページある。

「ファイルフォーマット」

 「ファイルフォーマット」はMOV/MP4/AVCHDの3種類ですが、ぶっちゃけこの機種でAVCHDを使う人は稀だと思います。そもそもAVCHDはFHD60pまでのレガシーな記録フォーマットです。ビットレートも低く、60pで28Mbpsまでなので限られたカードで長時間撮影したい場合には有効です。28Mbpsは文字通り28Mbit(3.5MByte)を1秒間で使用するという意味ですので64GByteのSDカードであれば5.2時間の記録が可能です。

とは言え、S1HでこのAVCHDフォーマットを使って撮る意味はあまりないと思います。これ使うくらいなら他のカメラでも良いんじゃない?という気もします。なので、基本的にはMP4かMOVになります。

 さらにはMP4だと4Kより上の解像度及びイントラコーデック(ALL-I)に対応していないなどの制限があり私は通常はMOVを使用しています。

「システム周波数」

 これはあまり意識する必要は無いと思います。NTSC圏の日本では59.94Hzがデフォルトで設定されていますので日本で使用する限り、これを変更するケースってのはあまり無いかと思います。PAL圏向けに映像を作る必要があるのであれば別ですが。

 それにWEB用の動画を制作したりネット上で動画を公開する上では特に意識する必要はないと思いますので、日本で使用する限りでは素直にNTSCを使っておくのがベターかと思います。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/0d/PAL-NTSC-SECAM.svg/1920px-PAL-NTSC-SECAM.svg.png

PAL圏:wikipediaより

 

「画角」

これはFULL/Super35mm/PIXELby PIXEL(ドットバイドット)の3つを選択することが可能です。S1HではFULLでしか使用できないフォーマットやSuper35mm以下の画角でしか撮影できないモードがあります。

代表的なものを説明すると、

・6Kや5.9Kの撮影はFULL画角でしか撮影できません。当たり前ですが、FULL画角じゃないと撮像素子の解像度が無いからです。

・4K60pはSuper35mm以下の撮影のみ対応しています。

これらはいずれも撮像素子もしくは画処理エンジン側などのハードウエアの制限によるものだと思います。

尚、4K30pであれば画角をFULL/Super35mm/PIXEL by PIXELと切り替えることができるのでデジタルテレコンとして使用可能で便利です。

「解像度」

6K(3:2アスペクト) / 5.4K(3:2アスペクト) / 5.9K(16:9) / DCI4K / 4K / FHDに加えて4:3アナモ4Kに対応しています。私の場合は16:9での撮影が多いため5.9K/4K/FHDを多用していますが、DCI4Kも場合によっては使い分けます。

通常は4Kを、後処理で4K切り出しを行いたい場合は高解像の5.9Kを選ぶという事になります。尚、ハイフレームレート120p撮影の際は前記同様にハードウエアの制限からFHDの解像度となります。一部のバリアブルフレームレートも同様です。

「フレームレート」

NTSCの通常撮影の場合は、モードによって120p/60p/48p/30p/24pが選択可能です。

正確には119.88p/59.94p/47.95p/29.97p/23.98pです。48pってのは一眼動画には馴染みが無いフレームレートですが、24p映像で50%スローを適用するのに適したフレームレートという事になります。

ビットレート

 これは解像度やフレームレートを選んだ際の二次的な要素も多いですが、例えばDCI4K30pや4K30p記録の場合ですと400MbpsのALL-Iなのか150MbpsのLongGOP(IPB記録)が選択できます。

 私の場合はそこまでALL-Iに拘る必要はないと思っていますので通常はLongGOPを使用しています。また、本来はALL-Iだと編集時にデコードの負荷が減るなどの恩恵が得られるはずなのですが、PCの性能のお陰かそこまでLongGOPでも負担は無いです。時間方向の圧縮がALL-Iは無い分高画質なのかもしれませんが、私の場合はネットでの動画公開が主ですのでLongGOPでなんら問題ないと思っています。

 尚、6K/5.9K撮影など特殊なフォーマットではLongGOP 200Mbpsでビットレートが選べないモードも存在しています。ですが、むしろレートが選べないのは少数派であって、一般的なH.264フォーマットは多くの場合、ALL-I /LongGOPが選べる様になっています。

「クロマサンプリング方式/ビット数」

 これも記録フォーマットによりますが4:2:2 10bitなのか、4:2:0 8Bitなのかを選ぶことが可能です。また、強制的に6K/5.9K撮影などでは4:2:0 10bit固定となります。

 こちらも前記同様にH.264の場合であれば、4:2:2なのか4:2:0なのかを選べる様になっています。というかH.264の多くの場合は10Bitであれば4:2:2、8Bitの場合は4:2:0のクロマサンプリングが選択できるようになっています。

 尚、4K60pのH.264記録の場合は4:2:0 8Bitとなります。10Bit記録したい場合は後述のH.265記録を選ぶ必要があります。

「コーデック(H.264/H.265)」

 GH5/GH5Sでは6Kフォトなどに使用されているだけだったH.265コーデックですが、S1HではかなりのモードでH.265の圧縮方式が採用されています。代表的なものは

6K(24p)/5.4K(30p)/5.9K(30p/24p)/FHD120p/4K(60p)

です。いずれの特徴も4:2:0 10bit記録である点が挙げられます。むしろH.265の採用がされたからこそこれらのモードで10Bit記録が可能になったのではないかと思います。

 H.265は少々PCでのデコード処理は重いですが、DaVinciでグレーディングする限りは普通に運用できています。

 そもそもS1Hの4K60pを10Bit内部記録しようとするとH.265になりますので他に選択肢はありません。この4K60pを10Bitで撮りたいというモチベーションがS1H導入の大きなモチベーションですのでこれが内部記録できるだけで全く違います。 

撮影フォーマットの要素から絞る

「ファイルフォーマット」「システム周波数」「画角」「解像度」「フレームレート」「ビットレート」「クロマサンプリング方式/ビット数」と要素を説明しました。私の場合は

「ファイルフォーマット」はMOV

「システム周波数」は日本標準のNTSCなのでそれ以降を考えれば良く

あとは何を撮りたいかという観点になります。

つまりスローで撮りたいなら「フレームレート」を120pに設定するとそれ以降の選択肢は絞られますし、「解像度」(画素数)を4Kに設定するなら候補は絞り込まれます。どうしてもALL-Iで10Bitで撮らないといけない場合なども時にはあるかもしれません。そういったときに便利なのが「絞り込み」の機能です。

 これがかなり考えられているU/Iで「フレームレート」、「画素数」、「圧縮方式」などを選ぶことで自分が撮影したい撮影フォーマットを絞り込む事が可能になっています。

 一旦S1Hで撮れるフォーマットが頭に入ってしまえば、これを使う必要はないですが、学習がてらこれを使用するのはアリです。これだけ膨大な撮影フォーマットを条件によって絞り込めるようにしているU/Iは非常に優秀です。

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ここらへんのU/Iも秀逸

S1Hの撮影フォーマットの多さはユーザー至上主義の表れ?

 とまぁ、つらつら書いてきて自分でも、モード表とにらめっこしながら今更、ああこのモード、コーデックがH.265だったんだ!と気づいた点もあります。「ファイルフォ

ーマット」「システム周波数」「画角」「解像度」「フレームレート」「ビットレート」「クロマサンプリング方式/ビット数」の要素がそれぞれあるので掛け算したらそりゃ凄いことになりますよね。。。

 一般的なミラーレス一眼はそれをこれら要素を掛け合わせるのではなく、一般的なフォーマットに絞り込むことで少数の撮影フォーマットを落とし込んでいる気がします。(実情は知らんけど、フォーマット見る限りそんな気がする。)

 でも、S1Hはメーカー側が動画の撮影フォーマットを絞り込むのではなく、ユーザーに撮影フォーマットを好きなように選んで、絞り込んで使ってくださいというメーカーの意思の表れがここに強く出ていると感じます。

 選択肢が多いですが、前述の様に絞り込み表示ができるので撮影フォーマットを選ぶ際に困る事はほぼ無いです。

 このカメラはメーカーが独り善がりで作ったのではなく、ユーザー側に多くの選択肢を与えることによって、より多くの自由度を提供するという大きなフィロソフィーを感じざるを得ません。撮影フォーマットの件に限らずその点が随所に現れている機種であり、こんなカメラは過去に見たことがありません。(GH5は近いけど)

 カメラが十分ヘンタイなのは今まで書いてきた通りではありますが、コレを提供するメーカーと開発者がそもそもヘンタイです。普通、これだけ掛け算したらその答えを捨てるのが普通の発想だと思います。でもこのカメラはそこをやらずに全ての掛け算の答えを一つ一つ実装しています。まさしくヘンタイの極みがここにあります。

 メーカーの方、見てたらごめんなさいm(__)m

私が良く使う撮影フォーマット

最後に私が使うフォーマットのTOP3を記載します。

①3840x2160, 29.97p 記録,  150Mbps(4:2:2,10bit LongGOP), H.264/MPEG-4 AVC

 FULL画角,Super35mm画角ともに使用

②3840x2160, 59.94p 記録, 200Mbps(4:2:0,10bit LongGOP), H.265/HEVC

 Super35mm,ドットバイドット(≒Super35mm)共に使用

 主に30pプロジェクトでの50%スロー適用

③1920x1080, 119.88p 記録, 150Mbps(4:2:0,10bit LongGOP), H.265/HEVC

 FULL画角,Super35mm画角,ドットバイドット共に使用

  主に30pプロジェクトでの25%スロー適用

 

となります。いろいろ出来るのにありきたりな所を使って申し訳ない気持ちになりますが、やはりここに落ち着きます。

 

さらにここ一番の解像度が欲しい時には

・5888x3312, 29.97p 記録, 200Mbps(4:2:0,10bit LongGOP), H.265/HEVC

 FULL画角

 を使用します。また、現在テスト的に下記フォーマットでよりシネライクな映像を試している所です。

・4096x2160, 23.98p 記録, 150Mbps(4:2:2,10bit LongGOP), H.264/MPEG-4 AVC 

   FULL画角,Super35mm画角ともに使用

 

てなわけで今回も誰が読むやら分からない内容のエントリを書いてしまいましたが、また次回に続きます。 

 

孤高のヘンタイカメラS1Hレビュー目次

大きさ・重さ

動画画質
③撮影機能のヘンタイ的側面
 3-1 動画撮影フォーマット←今ココ
 3-2 手振れ補正のレベル
 3-3 ISOオート時のリアルタイムISO表示
 3-4 スポット輝度メーター
 3-5 カスタムメニューの仕掛け
 3-6 赤枠REC表示
 3-7 電子接点の無いレンズの手振れ補正設定
 3-8 分割撮影機能
④外装的なヘンタイ側面
 4-1 チルトバリアングル
 4-2 冷却ファンがヘンタイ
 4-3 前面、上部に配置されたRec専用ボタン
 4-4 タリーランプ
 4-5 ツイスト防止穴
 4-6 液晶の明るさ
 4-7 肩液晶表示
 4-8 撮像面マーク(距離基準マーク)
⑤その他