とあるビデオグラファーの備忘録的ブログ

ビデオグラファーsumizoonのブログ 一眼動画に関する機材や撮影方法を中心に情報を発信していきます。

熱停止問題再び? SONY α1は4K記録でオーバーヒートする?

少し気になる動画をYoutuberの瀬戸さんがアップされていたので少し考えてみたいと思います。

【ちょっとショック…】α1で4K動画を撮ったらオーバーヒートしてしまいました。

 

α1は多画素機なので有効画素1210万画素のα7SIIIに比べるとセンサの発熱はかなり違うはずです。なおα1はカメラ有効画素数5010万画素となっています。

https://www.sony.jp/products/picture/ILCE-1.jpg

SONY α1の読み出し方式

大前提としてα1ではフル画角4K撮影時はピクセルビニングによるアナログ画素混合で読み出しを行っているはずです。このモードでは4K30/60が撮影可能で4K120pの場合は10%のクロップになります。 

また8K撮影の場合は30pにフレームレートが下がります。なお8K30p撮影の際にスチルで有効になる幕速1/250sec駆動で動作するかは確認できていませんが、α1の動画機能紹介ではアンチディストーション的な機能を売りにした記載は無いので8Kの場合は幕速(読み出し速度/Skew)は標準的な速度で読み出されるのでは無いかと推測します。

で、瀬戸さんが上記動画で紹介している熱停止はα1のSuper35mm 4K(5.8Kオーバーサンプリング)モードになります。

α7SIIIのフル画角のセンサ読み出し画素数

4240 x 2384=1011万画素(4K撮影時のオーバーサンプリングファクタは1.1)

α1のオーバーサンプリング5.8Kの読み出し画素数

一方でα1のオーバーサンプリング5.8Kの読み出し画素数

5760x3240=1666万画素(4K撮影時のオーバーサンプリングファクタは1.5)

 

https://www.sony.jp/products/picture/y_ILCE-1_OverSampling.jpg

https://www.sony.jp/products/picture/y_ILCE-1_OverSampling.jpg

当然1.64倍の画素数で撮影するα1の方が画角が狭いとはいえ、元の画素数が多く高精細に映るはずです。

その代償が熱だと思われます。単純に考えるとα7SIIIで4Kフル画角で読み出した際の電力に比べてα1のSuper35mmの電力は1.64倍の発熱となると思います。ですが、この1.64倍というのはあくまでセンサの読み出し方式が全く同じであった場合の話です。

なお、画像処理エンジンがエンコードや様々な画処理を行う際に発する熱も上記同様に1.64倍になると推測します。

実際の電力はどのくらいなのか

さて、実際の消費電力がどのくらいなのかという話を考えてみたいと思います。電力のヒントは先日のISSCC2021学会発表スライドにあります。

image-sensors-world.blogspot.com

このSONYの公式ページにはさりげなくα1では新しいオンチップA/D方式を開発したとあります。それが間違いなく上記の発表内容のものと思われΔΣ方式のA/Dを採用しています。新しいデルタシグマの列A/D方式が画質や電力に与える効果はちょっと私には分かりかねますが、発表のスライドには14bit出力44fps時の電力が記載されています。

 

https://1.bp.blogspot.com/-4ejFYpUxWTc/YCl19e-M2LI/AAAAAAAAi1Q/wvU_2wSazXIdBJv78uLerzb8er6hiHdhgCLcBGAsYHQ/s320/s-1.JPG

 

https://1.bp.blogspot.com/-mj2ecvb8sLU/YCl19chQOMI/AAAAAAAAi1U/0jaYPcHjW1QKyR5WiatDtiXPPlkvFZUSQCLcBGAsYHQ/s320/s-2.JPG

Image Sensors World: ISSCC 2021: Sony 50.1MP Full-Frame Sensor with Sigma-Delta ADC and kTC Noise Reduction

これは2760mWは5010万画素フル画角44fpsで読み出しを行った際の電力なのでこれをSuper35mmの5.8K60p(4K60p記録)に無理矢理換算してみたいと思います。

①16:9 APS-C 4K60p 5.8Kオーバーサンプリング

2760mW x (1666MP/5010MP) x (60fps/44fps)=1197mW

つまり1.2Wが動画撮影中に消費するものと推測します。動画フォーマットが14bitかどうかは不明なので、この無理矢理の換算があってるかどうかは正直分かりません。

いや、この絶対値を出したのは単なる興味なのでこれが多いのかはたまた少ないのかは正直わからないのですが、同じ様な計算をすると8K30p撮影時には

②16:9 フル画角8K30p 

2760mW x (4260MP/5010MP) x (30fps/44fps)=1600mW

スチル撮影時の場合は

③3:2 画角スチル撮影

2760mW x (5010MP/5010MP) x (30fps/44fps)=1800mW

となります。普通に考えると5.8K60pよりも8K30pの方が熱停止の確率は高く、スチルを仮に秒間30コマで無限に撮れるならスチルの熱停止の可能性があると言えます。とはいえ実際にスチルで無限に撮る事は通常はあり得ないので、5.8Kの様に熱停止で止まるという事はそう簡単に起き得ないと思います。特にスチルの場合は時間方向の圧縮が無いので画処理エンジン的にも優しいと言えます。

あとついでにピクセルビニングの4K60pの際の電力も考えてみると

④16:9 フル画角4K60p ピクセルビニング(2x2アナログ画素混合)

2760mW x (1065MP/5010MP) x (60fps/44fps)=800mW

となります。(おそらくα7SIIIはα1とは読み出し方式が異なるとは思いますが、4K60pの場合は画素数的にはこれに近い値で動作していると思います。)

つまりセンサ電力的には

③スチル高速連写②フル画角8K30p①Super35mm4K④フル画角4K60p

(電力比率 ③2.25②2.00①1.5④1.0

となるかと思われます。記録ビットレートは③が最大ですので発熱はメモリやセンサの出力インターフェース側に集中するはずですが、先にも述べた通り③は時間方向の圧縮がないためエンコード自体の電力は低くエンジン側のエネルギーは低く済むものと推測します。

繰り返しますが、ここまで書いておきながら合ってる間違っている可能性も高いですし、数値に関してはあくまで論文のTypcalデータを基にした参考値です。なので単なるおっさんの興味で書いている事と話半分に読んでくださいね。

 熱停止であって熱暴走では無い

以前もEOS R5の際に騒がれた際にも、世間の「熱暴走」という言葉をみるたびに黙ってられなくて書いたエントリがあります。

sumizoon.hatenablog.com

あくまで熱停止は安全に停止させる正常に動作している際の動きです。本当に暴走するとヤバいですが、そうではありません。流石に最近は熱暴走という人はだいぶ減ったように思います。
熱で止まるのが嫌ならこのカメラは買うべきでは無いですが、それも使い方次第だと思います。ショートクリップを超高画質で撮るとかの使い方をするにはビデオカメラとしても非常に魅力的だと思います。とは言え流石に買えないので、某メディア経由でお借りして試したい。。。

このサイズのボディで熱で止まらないなんて都合の良い製品は2021年にはまだ存在しないという事でしょう。熱で止まらない多画素35mm判動画機が欲しいならFX9とかシネマカメラを買うべし。(なんちゅう終わり方だ。。。)

それに、α1はそもそもサイレントで1/250secの幕速を実現するエポックメイク的なカメラであり、この機種を動画用途だけに使うには勿体なさすぎるかなとも思う。

熱停止についての追記

発売直後の熱停止検証をされている方が結構おられたのでざっくりまとめます。

この手の実験で報告するなら

・撮影モードの詳細

・被写体の状態(時間軸で変化する被写体か否か)

・コールドスタートか否か

・背面液晶の状態

・自動電源OFF温度設定の状態

・環境温度、風の状態

は明記するべきかと思いますが、全てを明記されているケースは稀です。(そりゃそうか)とは言え概ね傾向は下記の通りです。

 

ピクセルビニング4Kではほとんど止まらない

→これは予想通り。実質的にはα7SIIIと使うエネルギーが同じため熱停止するケースは少ないと思います。

APS-C 5.8Kからのオーバーサンプリング4Kは35分程度で熱停止

→これは冒頭に紹介されていた瀬戸さんの検証同様でほかの多くの人も同じ状態の模様。瀬戸さんが借りたデモ機が初期不良という可能性は低い

・フル画角8K30pも同様に熱停止

→まぁ30分も8K撮る人がどれくらいいるかは謎ですが、30分以内で熱停止するという報告があるも自動電源OFF温度[高]の設定は不明

 

また、上記情報発信されている方の多くは何れも背面液晶は閉じた状態での測定っぽいですが、α使いでは半ば常識になっている背面液晶は浮かした状態で撮ると上記状況は変わってくると思います。以前はセンサの裏面にあたる外装部分に「冷えピタ」を貼ると良い、なんていう都市伝説がありましたが効果の程は疑問視しています。

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 α6300やNEX-5Nでも同様の運用をしていた。

また参考にさせて頂いたいずれの検証も、固定撮影で絵(被写体)がほぼ動かない状況でのテストの様です。この場合、LongGOPでは画処理エンジン側の時間圧縮のエネルギーが発生しにくい状況ですので、アナログテレビのノイズを撮影する様なエンコーダーにとって過負荷の状況だと上記よりも熱停止時間は短くなる傾向にあるかもしれません。

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この手のパターンでやると違いが出るかも?

 

いずれにせよ検証されている方の傾向を見ると、熱停止までの時間は

②フル画角8K30p①Super35mm4K④フル画角4K60p

の様に思えます。なので上で紹介した撮影フォーマットの違いによる電力比率に伴う発熱上昇がそのまま熱停止時間を反映しているという考えもまんざら外れていないかもしれません。

尚、Youtubeなどの熱停止検証ではコールドスタートしているケースと停止後モードを変えてリスタートして計測しているケースがありどれが正しいのかもう少し結果を見守る必要があるかと思いますが、8K30pは10分やそこらで停止するものではなさそうです。上でも書いたように8Kを長回しするケースは稀だと思いますので、瞬間的に高画質の映像を撮るには向いていると思います。 

画質についての追記

そして、結構作例をこの二日ほど興味深くあれこれ見てみましたが、ノイズに関しては極端に強いというわけでは無いようです。24MP程度にリサイズした際でもISO3200までが実用範囲かと思います。標準露出以上の部分に関してはISO3200でも使える画質だと思いますが、比較的低照度のノイズは処理が必要かと思います。

別所隆弘さんがすでにα1で私もよく撮影する場所でのスチルを撮影されていたので引用させて頂きます。

 とはいえ、50Mの高解像度は条件の良い中での絵は流石に高精細で見ていて素晴らしいです。またAFの追従性やメカシャッターレスでの連写性能を考えると、これは職業カメラマンが撮り逃しの絶対できない現場で使うには強力な武器になるかと思います。また、野鳥撮影などのカメラマンにとっても非常に魅力的な機材です。もともとトリミング前提で撮ることが多い野鳥撮影でかつ鳥の目にピシッと合うAFは非常に魅力的だと思いますし、一度カワセミ撮ってみたいカメラだなと。

 

筆者:SUMIZOON

Facebookグループ一眼動画部主宰 お陰様でメンバー3000人突破

Youtubeチャンネル STUDIO SUMIZOON の人

 

 

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