とあるビデオグラファーの備忘録的ブログ

ビデオグラファーsumizoonのブログ 一眼動画に関する機材や撮影方法を中心に情報を発信していきます。

LUMIXのリアルタイムLUTと高機能LUT作成アプリ「VideoLUT」について

コレずっと書こうと思って書けてなかった記事になります。

LUMIX S5IIでリアルタイムLUTが初めて搭載された際に、LUMIX界のラスボスこと「森脇先生」から「リアルタイムLUT用のLUTを作る場合、こんな簡単便利なサードパーティ製ソフトが存在するよ!」と教えて頂いたのがかれこれ一年近く前。
当時、先生に「解説記事書きます!」とお伝えしたものの全く書けてなかったのでした🙏

それがVIdeoLUTなるiOS用のアプリ。今回は最新のLUMIXに搭載されているリアルタイムLUT機能とそのLUTを作るためのアプリVideoLUTの紹介をしていきたいと思います。

尚、本記事は案件じゃないですw

と言うか、この記事を書くきっかけにもなったのが先日の「LUMIX S5II/S5IIXのファームウェアアップデート」
今まで動画でリアルタイムLUTを使うと失敗した場合に後戻りできないので私は使用を避けてました。ですが、今回のアップデートにおいてV-Logの元素材を残したままLUTを適用したプロキシが生成できるので、リアルタイムLUTを使った撮影を本格的に使ってもいいなと思った次第。

リアルタイムLUTとは

まずはじめに最新のLUMIXに搭載されているリアルタイムLUTについて簡単に解説します。

LUMIX S5II/S5IIX/G9PROIIではカメラ内にLUT(ルックアップテーブル)を取り込んで撮影時にLUTを適用した状態で静止画撮影(JPG出力)させたり、動画撮影することができます。

これをLUMIXではこの機能を「リアルタイムLUT」と言いますが、私の知る限りミラーレスカメラでは初めて搭載された機能です。LUMIXの公式サイトでは下記の様に紹介しています。

LUMIX独自のフォトスタイルに加え、新たにカメラ本体でLUT(ルックアップテーブル)を適用して、自分好みの色表現を撮影データに反映できる「リアルタイムLUT」を搭載しました。これにより色設定の自由度が上がり、撮影後に色味の補正を行わなくても撮影データのまま編集へ移行できるので、ワークフローの効率化も図れます。適用するLUTは「.CUBE」と「.VLT」に対応します。

LUMIX S5II/S5IIX紹介HP
https://panasonic.jp/dc/products/s_series/s5m2_s5m2x/expression.htmlより引用

LUTに関しては動画撮影者であれば馴染みがある方が多いと思いますが、スチルカメラマンの多くは馴染みが無いと思いますので、もう少しだけ解説したいと思います。

左:撮って出し/右:LUT適用

上図はみんな大好き?ティール&オレンジのLUTをあてたものです。この様に、一般なカメラプロファイルには入っていない「個性が強いカラープロファイル」を簡単に適用して記録できるのがリアルタイムLUTの面白いところです。LUTは作り方がわかれば比較的簡単に作ることができますし、気に入ったLUTを様々なサイトからダウンロードして適用させることができます。LUTは色やグローバルなコントラストを変化させる言うなればカラープロファイルと思っていただければ良いとおもいます。簡単に映画調やブリーチバイパス、有名なフィルムの色味やコントラストにすることが可能です。

なお、古くからシネマカメラではオリジナルデータと共にLUTを適用させたデータも記録させる機種もありますが、LUMIXがミラーレスカメラで最初にLUT適用記録という機能を搭載しました。

リアルタイムLUT用のLUTインストール

リアルタイムLUTのカメラへのLUTインストールの前に、そのLUTがどのプロファイルをベースにつくられたものなのかを理解しておいたほうが良いです。LUMIX公式のLUMIX Color Labのページを見ると「フォトスタイルベースのLUT」と「V-LogベースのLUT」という表現をしている様です。そして両者の特性は全く異なります。

後者はV-Logガンマを「Rec.709変換+クリエイティブLUT」の様にネムいトーンと淡い色がRec.709ガンマとなるような大きな変化をもたらします。これを仮に通常のフォトスタイル(例えばスタンダード)に適用すると意図せず色とコントラストが極端になってしまいます。

逆もまた然りで、フォトスタイルベースのLUTをV-Logのプロファイルに適用しても、色こそ変化するもののネムコントラストにさほど変化が無いという結果になります。

まず公式サイトなどからダウンロードする場合は、そのLUTが何者なのかを確認しておく必要があります。

HPを見るとフォトスタイルベースとV-Logベースと明記されている

V-LogベースLUT→V-Logプロファイルに適用

フォトスタイルベースLUT→通常プロファイル(スタンダード/CineLikeV2/D2等)に適用

と覚えておくとよいでしょう。

LUTの作り方やベースプロファイルに対する説明は後でするとして、まずはLUMIXに対してどうやってLUTをインストールするかの説明をします。尚、先にも述べた様に2024年4月現在リアルタイムLUTの機能が搭載されている機種はLUMIX S5II/S5IIX/G9PROIIの3機種のなっています。

①LUTをSDカードにコピーする

とりあえずなんでもいいのでこのサイトからダウンロードするか、テキトーなLUTが手元にあればSDカードにコピーします。コピーする際はSDカードの一番上の階層にコピーしてください。

②LUTをカメラで読み込む

ここではLUTライブラリへLUTの登録をします。SDカードを差し込んで下記のメニューに沿って読み込みをするだけです。もしデータがリアルタイムLUTに対応してない形式だった場合はここには表示されませんので形式を変更するなど試してみてください。


③LUTを適用したプロファイルに読み込む

フォトスタイルからMY PHOTO STYLE1を選択します。(既に設定済みであれば2〜4を選びます)

まず①でベースプロファイルを選びます。これは先に述べたLUTに依存しますので間違わないように設定します。V-LogベースのLUTであればV-Logですし、通常のフォトスタイルベースのLUTであればスタンダードなどのプロファイルに設定します。(LUTによってはフォトスタイルのCineLikeD2に設定する旨の指定があると思います)

標準の状態ですとLUTはOFFになっていますが、

ボタンを押すことでLUTを選択すればLUT適用表示がONとなります。(LUT選択状態でLUT適用をオフしたい場合はLUTカーソルに合わせてダイヤルの左を押せばOFF表示となります)
そんなに難しくはないですが、下記の様な流れです。

尚、フォトスタイルを選ぶ際に下記の「リアルタイムLUT」のフォトスタイルを選ぶメニューがあるので、こちらを選んでしまいそうですが、この「リアルタイムLUT」を選ぶと、後で述べるV-LogベースのLUTしか使えないのです。
「V-Logベース」のLUTを適用するのであればこの「リアルタイムLUT」の項目を設定してしまえばいいのですが「フォトスタイルベースLUT」を適用したい場合はこの設定を使うとおかしな事になります。

この設定を選んでしまいがちだが、V-Logベースでしか使えない

スチルと動画で少し状況が異なるリアルタイムLUT

尚、動画の場合と静止画撮影の場合ではこのLUT記録に関して状況が異る点を書いておきます。先のフォトスタイルベース、V-Logベースの話とは別で、あくまで純粋に撮影が「動画」なのか「スチル」なのかで状況が異なるという事を説明します。

スチルはLUT適用してもRAWが撮れる

・スチル:リアルタイムLUTを使用した場合はリアルタイムLUT適用データ(JPG)+RAWデータも記録可能

上図の様にスチルはいわゆるJPG記録される画像に対してLUTが適用されて記録されますので、撮影後にLUT適用した画像が気に食わない、といった場合にでもRAWデータを保存しておけばやり直しが基本的に効きます。また、カメラ内現像でもLUTの当て直しが可能です。これは撮影時のホワイトバランスの調整がJPGだと効かないけど、RAWだとやり直しが効くというのと状況はほぼ同じです。

(上記で「基本的に」、とか「ほぼ同じ」表現した理由は、実はV-Logベースでの撮影を静止画で行った場合には若干落とし穴があるからです。興味がある方はこちらをご覧ください)

動画はLUT適用すると焼き付けられる

・動画:リアルタイムLUTを使用した場合はリアルタイムLUT適用データのみ記録
※S5II/S5IIXはプロキシのみでの適用も可能(後述します)

一方で動画の場合はRAW記録ができませんので、ホワイトバランスがあとから正確に調整できないのと同じで、LUTを適用した画像をLUTが適用しない状態には戻せないと思ってください。

私が動画撮影でリアルタイムLUTを使用した撮影を積極的に行なってこなかったのは、この部分でリスクがあると思っているからで、失敗のできない撮影ではグレーディングは動画撮影でのポスト処理を行ってきました。
とは言え、遊びの撮影とかですとティール&オレンジLUTを当てた状態で撮影するのは楽しいですし、そのまま無編集でシェアできたりする楽しみがあると思うので動画撮影でのリアルタイムLUTの使用を否定するものではありません。

 

※尚、2024.4.22に公開されたS5II/S5IIXの最新ファームウェアを適用すると、LUT適用しないオリジナルと、LUT適用したプロキシの両方を記録する事ができます。

これを使うと、SNS用や一時チェック用、クライアントチェック用などでLUTを適用した映像を使い、オリジナルデータは元のLUTが当たっていないV-Log素材が記録されるので、やり直しも可能となりました。(ただし、2枚のSDカードにそれぞれ2つずつ記録する「バックアップ記録」は出来ない模様)

LUTは作るもの?どっかからダウンロードするもの?

多くの人は、LUTはダウンロードして使う事が圧倒的に多いかと思います。

LUTは色とガンマを変換するデータであって、極論してしまうと単なる数値テーブルです。ちょっと表現はアレですが、RGBのそれぞれの輝度に対して色と輝度を歪ませるためのテーブルががLUTです。

中身をテキストエディタで見るとこんな感じでひたすら数値が並んでいます。

まぁなんの事かあんまり理解する必要もないのですが、それぞれR/G/Bの値をどういう色に変化させるかという情報がLUTなのです。たとえば32点のLUTだとすると32x32x32のポイントがあります。何も変化をさせないLUTであれば綺麗な立方体となり、モノクロにするLUTであればR=G=B(無彩色)となるようにポイントが並びます。低照度から高照度にかけて緑色に転ぶ様なLUTであれば全てのポイントはG軸に寄ったLUTとなります。

左:素通しのLUT / 中:彩度がないモノクロに近いLUT / 右:Gに寄ったLUT

尚、VideoLUTには上記のようにLUTを可視化する機能が備わっていますがどうやら16x16のLUTじゃないとちゃんと可視化できないようです。LUTによってはあきらかにおかしい表示になります。現状この表示はオマケ機能として捉えておいた方がよさそうです。

 

LUTのその構造は簡単なものの、自分で作ってみたいとは思うものの、なかなか作り方がわからないという方が多いと思います。一般にはPC上でDaVinciやら動画編集ソフトや各種ソフトを立ち上げてLUTを作るという作業が必要なので、電車の中で暇つぶしがてらLUTを作る様なことはなかなか難しいのです。

前置きが長くなりましたが、アプリVideLUTを使うといつでもどこでも簡単にLUTを作るくとができます。

VideoLUT

VideoLUT

  • Katerina Alieksieienko
  • 写真/ビデオ
  • 無料

apps.apple.com

VideoLUT概要

VideoLUTの概要について書いてみます。

iOS用のアプリである
iPad/iPhoneでのみ使用可能
・価格は買い切り1,600円(短期間ライセンスもあるが買い切りがおすすめかと思う)
 ↑私が買った時は1600円でしたが、今の値段は変わってるかも

簡単にこのアプリで出来ることをざっと書くと

①各種Videoの読み込み
②Rec709変換
③各種LUT(プリセットLUT/フィルムエミュレーションLUTがてんこ盛り)
④カラーホイールなどを使ったグレーディング
⑤各種LUT情報の可視化
⑥LUT/グレーディング適用後のビデオ/静止画の書き出し
⑥LUTの書き出し(.cube他)

なおLUTの適用量の調整や複数LUTの多重適用(重ね掛け)も可能で本格的なツールとなっています。

インターフェース関連はちょっと分かりにくいところもありますが、DaVinci Resolveに不慣れな人にとってもリアルタイムLUT用のLUTを作れるツールとなっています。

また、プリセットのLUTのルックを一覧できるのでイメージがしやすいかと思います。

VideoLUTを使ってみる

準備( 読み飛ばしてもOK)

VideoLUTは本来はメニューを含め英語表記ですが、iOS側で変な日本語に変換されてしまうのでこれがすげー違和感あります。なので実は英語の方が扱いやすいかもしれません。
その場合はiOS側で優先する言語を日本語→英語としておきます。(多くの方は日本語のみだと思いますが、英語を追加します)

でもってVideoLUTで優先する言語を「英語」に変更します。

もちろん日本語のままでも良いというのであれば上記操作は不要です。

ちなみにメニューの日本語と英語の違いを見るとこんな感じ

メインメニューの日本語優先表示(表示しきれてないメニューがある)

メインメニューの英語優先表示(すっきり)

サブメニューの中身をかなり見た目の印象が違います(「輝きます」って、どんな訳だ。。。)

VideoLUTの起動とプリセットの適用

まず、適当な画像を読み込ませます。動画でもスチルでもかまいません

 

まず、起動してどんなLUTが入っているのかを確認してみます。わかりやすいインターフェースなので適当にポチポチやれば絵がいろいろ変わると思います。まずは気に入ったLUTを探すのがいいと思います。

というか、使うとわかりますが、多すぎて全部見切れません。。。なので一旦軽く全体像を見たい場合は下記を試すのがいいと思います。

メインメニューの「More」から「Chart」→「LUTs」でどんなLUTが入っているかの全体イメージが見れます。

つうか、「使えね〜」と言うのも含めてどんだけ入っているやら。。なおPreset2の後半のEmulateでは各種フィルムのエミュレーション的なLUTが入っています。

LUTの書き出しとSDカードへのコピー

あとは好きなLUTが決まったらSDカードへ書き出します。ここで一点注意があります。
Share .CUBE32を選んでも私の環境下では16点ポイントの粗いLUTが出力されます。

この問題を避けるには現状.CUBE33を選択することです。

あとは名前を付けてSDカードへコピーします。

これをLUMIXに読み込めばOKというわけですが、そのやり方は前半に記載した通りです。

高機能なVideoLUT

さて、プリセットの画像確認とそのLUT書き出しに関して簡単に説明しましたが、VideoLUTにはDaVinci Resolve顔負けの機能が備わっています。とはいえ使いこなしには少々慣れが必要だったり、わかりにくい部分もあります。私自身もこれを使いこなすには至っていませんが、例えばLUTの特性を可視化する部分に関してはDaVinci Resolveには無い機能です(一部バグっぽい挙動あり)。

3ホイールによるグレーディング、特定の色相に対しての調整( Hue vs. Hue / Hue vs.Sat / Hue vs. Lum / Lum vs. Sat / Sat vs. Sat)も備わっています。ノードベースでは無いもののほとんどこれでLUT作れるんじゃね?と言う印象です。

また、V-Log→Rec.709変換→クリエイティブLUTのように重ね掛けされたLUTを作ったりそのLUTから微調整をしたりというのも当然できます。

 


LUTとしての書き出しはできませんが、フィルムグレインなどのエフェクトを適用して動画の書き出しもできますのでDaVinciを使わずにグレーディングをするというのも出来なくは無いです。(多分やらんけど)

本当はある程度一気に紹介しようと思ったのですが、もうここまでで7000文字オーバーになってしまったので、今回はここまで。

使っているよ!と言う方がおられましたらTwitterなどで教えてください。

と言うか私もまだまだ使いこなせていない。。。

 

 

筆者:SUMIZOON

Facebookグループ一眼動画部主宰

Youtubeチャンネル STUDIO SUMIZOON の人
チャンネル登録して頂けると幸いです

 

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