とあるビデオグラファーの備忘録的ブログ

ビデオグラファーsumizoonのブログ 一眼動画に関する機材や撮影方法を中心に情報を発信していきます。

リアルタイムLUTで撮ったRAWが暗い理由と対処法

リアルタイムLUTはLUMIX S5II/S5IIX、LUMIG G9PROIIの3機種に搭載された機能です。これは好きなLUTをカメラ内に取り込んでおいて、LUTを適用した状態で写真、映像を撮影するというもの。今まで多くの機種に搭載されている「表示だけLUTを適用するというV-Logビューアシスト」とは異なり、リアルタイムLUTはLUT適用後の写真、映像を記録します。

つまり「LUT適用してデータに焼き込む」というものです。いわばプロファイル(LUMIXで言うところのフォトスタイル)を無限に作ることができる。というものです。(尚、そのLUTはPCやタブレットを使用して作成することが出来ますが、今回はLUTの作り方の話は割愛します)

https://panasonic.jp/dc/products/g_series/g9m2/still.html

写真でのリアルタイムLUT

リアルタイムLUTは写真・動画の双方で使う事が出来ます。写真の場合はJPGとRAWを同時記録できるので、撮影後にLUT適用したJPGが気に入らない場合、RAWを使って現像をやり直す事が可能となっています。

ところが、このリアルタイムLUTの作り方、適用のさせ方によっては「JPGは適正な明るさで撮れるのにRAWがやたら暗い」という現象が発生します。

今回はこの現象の背景と対処方法についての説明となります。一部テクニカルな記述をしていますが、興味ない方はここまで読み飛ばしてください。

 

RAWが暗くなるケース

JPGが明るいのにRAWが暗くなるケースにはいくつかあります。ケースを分けてみます。

①リアルタイムLUTをLogベースのものを使用している

②適正な明るさをLUTになっていない(明るさが大きく変わるLUTを使っている)

大概この2つです。というかほぼ①でしょう。

なぜ、LogベースのリアルタイムLUTで当時記録したRAWが暗くなるのかは、バグでもなんでもなく理由があります。その背景についてまずは説明します。

LogベースのリアルタイムLUTを使った場合

先の①に関してもう少し深堀りします。この現象が出る背景はリアルタイムLUTのLUTそのものに原因があるのではなく、一般的なリアルタイムLUTがLog撮影をベースにしている点にあります。なのでLogプロファイルで撮影した写真を例に話を進めます。尚、対処方法を知りたいだけの方は後半まで読み飛ばしてください。

適正露出でLog撮影で撮ったものがこれ

リアルタイムLUTを適用して撮影したJPG
F1.4 SS=1/125 ISO500リアルタイムLUT(メーカー純正Rec709LUT)適用

 

さてこれをLightroomに取り込んでみます。最近のLightroom仕様では撮影したプロファイルを適用した表示がなされるのでこの場合はLUTが適用されていない淡い画像となります。

これをいわゆる一般的なRAW現像をするために「通常のスタンダード撮影」に相当するものに変更します(カメラ標準)。

確かに暗いですよね。

一方でリアルタイムLUTを使用しないスタンダードプロファイルで撮影して得られたJPGがこちらになります。

通常プロファイル(フォトスタイル:スタンダード)を適用して撮影したJPG
F1.4 SS=1/125 ISO500

Lightroomに取り込んでみます。

記録されたJPGと全く同じです。

本来はRAWで撮っているので以下の2つは同じ表示になって欲しいのですがそうはなりません。

どちらも同じF1.4 SS=1/125 ISO500の設定にも関わらずリアルタイムLUTが極端に暗いです。なぜこれほど違いが出るのでしょうか。

 

LogのISO500=スタンダードISO100

以下はLUMIXに限らずLog撮影できるほとんどのカメラで言える事です。

 

理解されにくい部分ですが、一般的にLog撮影は標準照度からハイライトクリップ(白飛び)するまでの領域(レンジ)を広くとる様に設計されたガンマカーブです。Logガンマで撮ると広いレンジで撮れる!と言われていますが、センサーの動きに限って言えばLog撮影であろうと通常のプロファイルであろうと同じはずです。(記録するための手法や処理が異なる)

なので、同一の照度、絞り、シャッタースピードに対してハイライトがクリップする条件はLogだろうと、スタンダードだろうと本来は同じはずなのです。

でも。。。ハイライトがクリップするまでの余裕が広がる(様に見える)というのはある手法がとられています。それは。

ユーザー側に低い露出で撮らせる事

この書き方はかなり極論に近いですが、ISO100で撮る場合とISO500で撮る場合を考えてみましょう。

ISO100に比べてISO500は露出が+2.3段上になります。ISO100でマニュアル露出に設定しして標準露出(±0EV)になるように設定したままISO500に設定すると露出メーターは+2.3(2+1/3)と表示されることになります。この時ユーザーはISO500のまま露出を適正(±0EV)にするための手段は大きく3つあり、いずれかの方法を選ぶはずです。

シャッタースピードを上げる(2.3段露出を下げる)

・絞りを絞る(2.3段露出を下げる)

・NDフィルタで減光する(2.3段減光する)

このいずれかの方法もしくは組み合わせで露出を下げる事をします。

でも、その行為をユーザーがしたとして、カメラ側は実はISO100のまま撮っている。としたらどうでしょうか?当然

ハイライトまでの余裕が2.3段広がる

と言った事が起きます。

これが一般的になLog撮影で行われいる処理です。イメージしやすいように書いたので厳密には少し異なりますが概ねこの理解をすれば良いと思います。つまり。。。

 

LogのISO500は実は通常プロファイルのISO100のままで

ユーザーをISO500であると錯覚させ結果ハイライト余裕が広がる

と言えます。すげー怒られそうな表現だけど。。。

 

では、Logで撮ったJPGは明るいじゃんと言われそうですが、勘の良い方ならお分かりだと思いますが、標準照度付近はISO100の暗い画像を+2.3段持ち上げて表示/記録させています。

以前はLogで撮った映像をREC709に変換するとノイジーだと言われた時代がありますが、そりゃそうです。スタンダードで言う-2.3段のシャドー域を0EVとして使うのでスチルのスタンダードプロファイルに比べてノイズが浮き出るのは当然です。

尚、LUMIX GH/Gシリーズの場合LogガンマのISO500とスチルスタンダードプロファイルでのISO100はセンサーの動きとしては同じ。

LUMIX Sシリーズの場合LogガンマのISO640とスチルスタンダードプロファイルでのISO100はセンサーの動きとしては同じ。

大体CanonSONYも同じくらいで概ね+2.数段このカラクリでハイライト余裕を広げているはずです。

尚、過去に書いたこの記事も併せてご覧頂ければ幸いです。

sumizoon.hatenablog.com

 

リアルタイムLUTで撮った際にRAWが暗くなる場合の対処法

前述の様にLogベースのリアルタイムLUT撮影をすると、Lightroomは下記の解釈をします。
LUMIX G9PROIIの場合

ISO500  (カメラ設定)→ISO100(Lightroom上)
ISO1000(カメラ設定)→ISO200(Lightroom上)
ISO2000(カメラ設定)→ISO400(Lightroom上)
ISO4000(カメラ設定)→ISO800(Lightroom上)

LUMIX Sシリーズの場合

ISO640  (カメラ設定)→ISO100(Lightroom上)
ISO1600(カメラ設定)→ISO250(Lightroom上)
ISO3200(カメラ設定)→ISO500(Lightroom上)
ISO6400(カメラ設定)→ISO1000(Lightroom上)

つまり、
LUMIX G9PROIIの場合

現像時に+2.32段現像ソフトで露出プラスにしてから現像する

LUMIX Sシリーズの場合

現像時に+2.68段現像ソフトで露出プラスにしてから現像する

この仕様は将来的にLightroomメタデータを解釈が見直され動きが変わる可能性はありますが、現状手っ取り早くRAWとJPGを同じ露出にするならこの方法がラクです。

 

最後に一応エビデンスとして残しておきます。

LogベースのリアルタイムLUT適用時に記録されたRAWをLightroom上のカメラ標準プロファイルを適用したものISO500が以下の画像 

リアルタイムLUT撮影時に記録されたRAW
F1.4 SS=1/250 ISO500リアルタイムLUT(メーカー純正Rec709LUT)適用

 

通常撮影でRAWをLightroom上のカメラ標準プロファイルを適用したものISO500が以下

通常撮影で記録されたRAW
F1.4 SS=1/250 ISO100

というようにLog撮影時のISO500は通常プロファイルのISO100と同じということが分かります。そしてLightroomはLog撮影時のISO100として認識していることがお分かりかと思います。

 

尚、本来の明るさはこれくらいが狙いだったとします。以下をリファレンスとします。

通常撮影で記録されたRAW
F1.4 SS=1/250 ISO500

で、Log撮影時におけるRAWは2.3段暗く撮影されているので+2.37にスライダーを移動させます。

 

リアルタイムLUT撮影時に記録されたRAWを露出補正
F1.4 SS=1/250 ISO500リアルタイムLUT(メーカー純正Rec709LUT)適用

左補正無し/右+2.37補正


というわけで、LogベースのリアルタイムLUTで生成されたJPGとRAWの明るさを揃えるためには(適用LUTが極端な輝度を変換するテーブルになっていない事が前提)

LUMIX G9PROIIの場合

現像時に+2.32段現像ソフトで露出プラスにしてから現像する

LUMIX Sシリーズの場合

現像時に+2.68段現像ソフトで露出プラスにしてから現像する

と覚えておくと便利です。

最後に

ここまで記載してお気づきかと思いますが、LogベースのリアルタイムLUTも映像撮影でのLog撮影も通常のスチル撮影に比べると低い照度を持ち上げる事をしています。

通常のスチル撮影では多くの人がやらないプッシュ現像を行っているイメージに近いです。これが出来る様になったのは撮像素子、映像エンジンの進化によるシャドーS/N向上が背景にあるという理解をしています。

ただ、LogベースのリアルタイムLUTは一般的なLUTを使う限り概ね2段S/Nが悪いという見方もできますので、その点は使い方に注意してください。

多分わからんレベルとはおもうけど、ノイズに拘る人は注意です。

 

なので、私自身はLogベースでの撮影時に+1段を標準露出としてLUT側でアンダーにするというLUTを作ればバランスがいいLUTができるのではないかと考えています。そうすれればハイライト側には1.3段余裕がありつつシャドーの品質も良い。SNとハイライト表現の両方がバランスよくなる。

てなわけで、それに相当するLUTを設計しようかなと思っております。

-1EV補正LUTができれば

・撮影者は+1EVを標準露出として撮影する

・撮影されたJPGは±0EV

・記録されたRAWは+1.3段補正で済む

期待せずにお待ちを~

 

 

筆者:SUMIZOON

Facebookグループ一眼動画部主宰

Youtubeチャンネル STUDIO SUMIZOON の人

f:id:sumizoon:20200713234902p:plain