とあるビデオグラファーの備忘録的ブログ

ビデオグラファーsumizoonのブログ 一眼動画に関する機材や撮影方法を中心に情報を発信していきます。

SIRUI 50mm T2.9 1.6xアナモフィックレンズにはLUMIX S1/S1Hが最強の組み合わせである理由

SIRUI 50mm T2.9 1.6xアナモフィックレンズを写真家の森脇先生からお借りできたので、その事について書いてみたいと思います。普段私は安易に「最強」とか書かない人ですが、素直な感想として使ってみました。
まずは、先日公開した作例を貼っておきます。是非4K以上に解像度設定でご覧いただければ幸いです。

SIRUI 50mm T2.9 1.6x Full-Frame Anamorphic Lens first look shot on LUMIX S1H 8K

アナモフィックレンズとはなんぞや

まず、アナモフィックレンズとはなんそやという話をしないといけないと思いますが、単純に書いてしまうと、縦長に映るレンズです。これは古い歴史の中で35mmフィルムのフレームに如何に高画質に映すかという話に遡ります。が、詳しい話は下記をご覧ください。

ja.wikipedia.org

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/f7/Anamorphic_lens_illustration_without_stretching.jpg/250px-Anamorphic_lens_illustration_without_stretching.jpg

フィルムに2.4:1画角を記録したケース

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/0c/Anamorphic_lens_illustration_with_stretching.jpg/250px-Anamorphic_lens_illustration_with_stretching.jpg

アナモフィックレンズを使い水平方向に圧縮して撮影した場合はフィルム全面で撮像できる

アナモルフィックレンズ - Wikipedia

つまりアナモフィックレンズは如何にフィルムを広い全面を使って高画質に撮るかという所に起源があるという理解です。(上映時には水平に引き延ばして映像を見る事になります。)

とかくアナモ特有のフレア(ストリーク)やボケの形状に目を奪われがちですが、本来は高画質に撮るための先人の知恵により実現したものがアナモフィックレンズです。

シネスコ2.4:1で映像を撮るとセンサの4割は使っていないという事実

世の中のミラーレスカメラのセンサはマイクロフォーサーズを除いてほとんどは3:2のアスペクト比の物が搭載されています。

ところが、2.4:1の映像を撮る場合、その上下の4割近いエリアはせっかく撮像できるセンサエリアが有るにも関わらず、全く使われません。フルサイズやAPS-Cマイクロフォーサーズなどのセンサーサイズを気にする方は多いと思いますが、この事実を捉えている人は少ないと思います。

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普通は2.4:1で撮るとセンサの62%の領域しか使っていない

シネマティック〇〇と言って上下にレタボを入れる動画が一部で流行っていますが、あくまであれは映画風に見せるための演出であって、画質的な意味はゼロです。(ま、私も良くやるんですけどね)

一方で、3:2画角でセンサー全域を使って撮影した映像を使って2.4:1画角を実現する様な便利なレンズがあれば

超高画質に映像を収める事ができる

という考えに至ると思います。これを実現するためのレンズがアナモフィックレンズとなります。この考えはフィルム時代に考えられた「フィルムをめいいっぱい使い切る」思想と一致します。

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1.6xアナモフィックレンズで3:2画角で撮ったままの映像(縦長に映る)

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撮影後に適正なアスペクト比に変換した場合(3x1.6:2=2.4:1)

オープンゲートで撮れるカメラは数少ない

2.4:1画角を実現するのであれば、3:2画角を使って1.6xの圧縮率を持ったアナモフィックレンズを使えばよいわけです。つまり計算上はこうなります。

1.6x3:2=2.4:1  

撮影時は水平方向に1.6倍圧縮して撮影して、撮影後に水平方向の伸ばせば縦方向の画素も全て含んだ高画質撮影を実現できるという事になります。

が、実はこの撮影ができるカメラというのはかなり限られています。

私の知る限りはセンサー面を完全に使い切った動画撮影(オープンゲートによる撮影)ができるミラーレスカメラはLUMIX S1HとS1だけです。(多くのシネマカメラでは出来るのにこらがミラーレスカメラとなると出来るカメラはほぼ無い)

そもそもこれがLUMIXが持つ変態的な機能の一つです。

尚、LUMIX S1は2021年4月に公開されたファームウェアVer.2.0でこれが実装されています。

SIRUI 50mm T2.9 1.6xアナモフィックレンズを使うとLUMIX S1/S1Hで8Kに相当する撮影ができる

LUMIX S1/S1Hの超高画質モードである6K撮影の記録画素数(解像度)は

5952x3968=23.6Mpix

です。

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S1/S1Hではフル画角3:2(黄色いライン)をはじめとして多彩な画角での撮影が可能

これと同じ画素数となるようにデスクイーズ(2.4:1に伸長)をした場合の解像度は

7529x3137=23.6Mpix

となります。これはほぼ2.4:1の8K(7680x3200)とほぼ同じ解像度という事になります(正確には実効的な垂直解像度と水平解像度が異なる事になりますがここではシネスコの8Kに近い解像度あるとします)。つまり中古で20万円しないカメラ(LUMIX S1)が8Kの解像度で動画記録できるというややバグった状態になります。(個人的にはこれだけでS1を買う理由になり得ると思うけど、書いてて分かってもらえるか謎だ。。。)

SIRUI 50mm T2.9 1.6xというレンズ

さて、ここまで書いていてふと、SIRUI 50mm T2.9 1.6xアナモフィックレンズについてほとんど言及していない事に気が付いたので、このレンズについて書いておきたいと思います。

https://sirui-cf.oss-us-west-1.aliyuncs.com/anamorphic/50mm_full_frame/img/pc/ja-jp.jpg

SIRUI 50mm Full-Frame

まぁ、詳しくは上記のSIRUIのページで見てもらったらいいと思います。が、いくつか注意点を書きます。まず、この50mmという焦点距離ですが水平方向には

50mm/1.6=31mm

の画角と考えてください。既にアップされている他の方のレビュー動画ではここらへんの言及はないと思いますが、実際使ってデスクイーズすると50mmよりも広い画角となるのが分かるはずです。

T値は2.9(F2.8に近い)と少し暗い印象ですが、3:2の高画質で撮る限りは夜でもなんら問題ないレベルです。S1/S1HでISO4000を使ってT2.9、SS=1/30で撮れば、むしろ都会の夜景は明るすぎると言っていいでしょう。

また、最短撮影距離は撮像面から75cmで、寄れるレンズとは言い難いです。というかアナモレンズ全般に寄れるレンズが無い印象なんですが、きっと構造上の理由があるんでしょうかね。

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フルサイズアナモフィックレンズとしては破格の値段設定

このレンズの価格は、まだ日本では小売店が扱っていない為はっきり分かりませんが、概ね20万円前後だと思います。これを高いとみるか、安いと見るかは人それぞれですが、一般的に映画用のアナモフィックレンズは新車の軽自動車、場合によっては普通のセダンが買える値段のものがほとんどです(映画用は2.0xが標準的だと思う)。もちろんそれらに比べてブリージング特性や収差は劣るのかもしれませんが、私の使った感触ではコレは使ってて楽しくてヤバい。。。といった感想です。アナモフィックレンズは解像感がイマイチなレンズが多い中で、中央の解像感はキレも良く、アナモレンズ特有のストリークもしっかり出ます。そして、作りも申し分ない。文字も全て彫られており墨入れされていて質感は非常に高いです。(外装だけでもかなりコストがかかっていて、日本のメーカーではこの値段では絶対に実現できないと思います。)

まとめ

とまぁ、LUMIX S1/S1HとSIRUI 50mm T2.9をやたらお勧めする怪しい文面になってしまいましたが、別に案件記事ではありません。とにかく、映像を撮っていて、久々に「ときめいた」ので記事にしてみました。

このレンズはやや大ぶりで寄れないレンズですが、アナモレンズを使った高画質撮影をトライしてみたいという方にはお勧めの一本です。1.6xという圧縮率も3:2撮影で2.4:1デスクイーズで映像を作るにはピッタリです。個人的には他のミラーレスカメラで16:9撮影で2.84:1を実現する使い方よりも映像配信向けだと思うし、コレを使うなら3:2で撮影できるLUMIX S1/S1Hを使わない手はないと思うのです。(というか一般家庭で視聴するのに2.8:1の画角はちと横長過ぎると思う)

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まだまだ使い切れていないこのレンズですが、もう少し突き詰めていければいいなと思う今日この頃でした。

多分、このレンズは「アナモフレアが~」とか、「アナモ特有のボケが~」というレビューがほとんどになると思うので、人とは少し違った視点で記事を書いてみました。

余裕があればデスクイーズの設定とグレーディングの仕方にについても書いてみたいと思います。

SIRUI 50mm T2.9 1.6x Full-Frame Anamorphic Lens first look shot on LUMIX S1H 8K

ではでは。

 

筆者:SUMIZOON

Facebookグループ一眼動画部主宰 メンバー4500人

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