はじめに
今回はスマホの画質、マイクロフォーサーズの動画画質に関して思ったことを書きますが、最初に断っておきます。その画質差は低照度などの極限状態、広いレンジを必要とされる動画撮影においての差です。そもそもスマホは照度がたっぷりとあるような、明るくレンジが求められない撮影では非常に綺麗に映るので(被写界深度は別として)、見る人にとってはスマホの動画画質はマイクロフォーサーズどころか、フルサイズと勝負できる画質なはずです。

事の発端
巨大な釣り針のような文句を最近SNSやYoutubeで見ることがあります。それは「マイクロフォーサーズはスマホに追いつかれつつある」とか「マイクロフォーサーズはスマホ同等の画質」というもの。それが今回記事を書こうと思った発端です(私も巨大釣り針に引っかかった一人かw)。そもそも撮影スタイルの違う2つのカメラを比べるのもなんだかなとは思いますし、どうでもいい議論ではありますがそれだと話が終わるので書き進めます。
スマホがマイクロフォーサーズに追いつかれつつあるとやらの多くの意見が静止画画質を中心に語られる話なのかもしれませんが、ここで断言しておくと(この言い方も好きでは無いですが)、少なくとも動画画質においてマイクロフォーサーズとスマホの画質は未だに「隔世の感」があると言っていいと思います。
最新のスマホを持ってしても少し照度が落ちてくると、マイクロフォーサーズと全く勝負できない画質となります。これは特に動画画質において顕著です(その技術的な背景は後述します)。
と言うのも、先日上記動画を水族館でG9PROIIとiPhone 17 Proで撮り比べてみたのですが、iPhone 17 Proでは全く絵にならない状況だったのに対してG9PROIIは破綻なく撮影することができました。

ぱっと見は綺麗に見れるiPhone 17 Proだが、MFTカメラとは全く異なる品質
(Blackmagic Cameraにて撮影 ISO3200 SS=1/30 Apple Log2 → Rec709変換)
G9PROIIがISO6400で使える画が撮れるがiPhone17 Proは低照度下ではISO800が限界
iPhone 17 Proも暗いところでかなり頑張っているとは思いますが、その画質はセンサー後段でかなりのノイズリダクションを経てつくられた画である印象が強いのです。複数フレームを参照した3次元NR感がかなり強く、それが低照度下の画像品質のモヤモヤ感で埋め尽くされてしまいます。※残念な事に今現在Blackmagic Camera + ProResRAWで撮影してもこのNR感が消すことができず、それが低照度下での絵作りを阻害してしまいます。
スマホがいかに進化したからといっても、やはりその差は埋まっていないと感じます。今回G9PROIIと同時に撮影に使用したiPhone 17 Proでの動画をアップしようと思いましたが、低照度での品質は低く編集を断念しました(次回はもう少し工夫して撮影してどうにか公開するかもしれません)。
スマホと一眼の静止画撮影技術の違い
確かに、この数年のスマートフォンのカメラ画質はかなり向上しているのは確かです。特に静止画に関しては画質向上は強く感じます。ですが、そこには一眼と異なる方向のソフトウェア(特にAI)の適用技術や、カメラの撮像手法(複数露光駆動と合成)によるものが大きいと思います。
スマホのAI処理は補間を超えて生成へ
一眼がワンショット(単一露光)でAIレスによる画質に拘っているのは、何も今の技術トレンドを無視したものではなく、写真という「真を写す」という概念によく言えば拘っているからだと思います。悪く言えば縛られているとも言えます。
「補間」処理を極端に超えて「生成」の領域に入ればそれはもはや「写真」ではなく「写偽」の領域と考える人も多いでしょう。私もそうした考えの一人で、光学的に写らないものは写る必要がないと考える人です(ま、考えが古いのかもしれませんが、報道とかで生成写真使うのは少なくともマズイと思う)。
よく、スマホで解像限界を超えた遠くの文字を写したら、はっきり写ってるけど謎の文字が写ったというツイートを目にします。このように無理矢理AIが文字として生成してしまうのであればそれは写真に似たものであり、写真ではないと感じます。一方で、一眼カメラは作品を撮るという側面を持つと同時に、記録を残すという道具の側面があります。その領域に一眼カメラが足を踏み入れることは将来においても可能性は低いと思います。
スマホがAIにぱっと見で綺麗に撮れるようになったとしても、それはかなり生成的に作り出されたものであると言っていいと思います。
スマホカメラの低照度時の撮像方法はそもそも一眼と違う
少し角度の違う話を書きます。
分かりやすいように今回は低照度下でのスマホの進化の方法について記載していきます。(以下は低照度下でスマホが綺麗に撮れるようになった手法の一つですが、それ以外にもスマホが綺麗に撮れるようになった要因はいくつもあります)
スマホに搭載されているセンサーはかなり機能デバイスとしての側面が強いのです。思えば10年前にスマホで初めて積層型が登場して以来、その進化はかなり進化してきました。また、スマホセンサーは光学サイズが小さいこともあり、高速に複数回読み出しを行い、プロセッサ能力と相まって位置合わせ処理+加算平均を取る撮影方法ができるようになりました。
これがいわゆる低照度下で誰もが写真が綺麗に撮れるようになったベースとなる技術です。
イマドキのスマホの場合、暗いところではかなりのフレームを撮影し、後段で重ね合わせる処理を行うことで手持ちで長秒露光ができるようになっています(しかもユーザーは意識することなく同機能が働きます)。
少し古い記事ですが、Google Researchブログのこの記事とかは参考になるかと思います。
ミラーレスなどの一眼カメラで低照度で静止画を撮る場合
一眼の場合は、スマホのようなある合成的な手法は基本的に行いません。それは、開発者も、ユーザーもアーチファクト(簡単に言えば変な画像になる現象)を嫌うからであり、一眼ではワンショットでの撮影が基本です。
無論撮影モードにもよりますが、一眼の場合の低照度下での撮り方は大きく2つです。
・手持ちでの撮影を可能にするようにISO感度を上げてシャッタースピードを稼ぐ
(SSを一定の速さにとどめる)
・三脚や手ブレ補正を活用し低感度でシャッタースピードを低く
(数秒以上)
大別してこの2つでしょう。※ここではレンズのF値の話はややこしいので置いておきます。
静物撮影の場合は圧倒的に後者の方が美しい写真が撮れますが、一眼を持ったカメラマン全員がそうした撮り方をする訳ではなく、フルオートで撮った場合は、前者の撮り方になります。そして前者の撮り方をした場合、後述するスマホでの画質に劣るケースが出てきます。
スマホで低照度下で静止画を撮る場合
先のGoogleの資料をベースに説明すると、今のスマホは基本的に一眼での撮影方法で述べた
・三脚や手ブレ補正を活用し低感度でシャッタースピードを低く
(数秒以上)
に近い動きをします。ただ、そこには一眼では、おこなっていないスマホならではのマルチフレーム・コンポジット(複数枚の高速連写合成)という、コンピュータの演算能力でねじ伏せるという処理が加わります。

Google Researchの資料をNotebook LMでスライド化したもの
スマホは被写体の動きや、撮影者の状況を鑑みてシャッタスピードをコントロールします。例えば撮影者が手持ちである状況下では1/15のシャッタースピード(66msec)で15フレームを高速に撮像し、内部で位置合わせを行いつつスタック。
もしくは、撮影者が明らかにブレを抑制(三脚や壁に押し付けているなど)している場合は1秒間を5枚。という様な適用型のスタック処理を施します(情報が古いですがPixel3の場合です)。

Google Researchの資料をNotebook LMでスライド化したもの
例えば、上記はGoogle Researchのドキュメントをスライド化したものですが、現在ではさらに高度な処理が施されています(今では白飛び抑制のための複数ゲインでのスタック処理が当たり前のように行われています)。
※なお、一部の一眼に搭載されているライブNDや擬似ND、あるいは内部コンポジットと言われる機能はこれに概念が近いですが、あくまで特殊な撮影方法としてユーザーが選択した場合にのみ有効となるものです。
このように、スマホが暗いところで綺麗に撮れる理由は、時間軸を撮影者に意識させずうまいことやっているからと言えます(ざっくりしてるけど)。
スマホの場合、動画撮影ではそう簡単に高画質化ができない
先の例では時間軸(高速連写でのスタック)を使って高画質化する話を記載しました。お気づきの方もいるかと思いますが、この技術は基本的には動画撮影では使用できないです。
そもそも動画撮影の場合、1フレームは長くても41msec(24fpsの場合)です。先の手法だと66msecの画像を15枚スタックして高画質化する話を書きましたが、動画の場合はそれよりも1フレームの時間が制限されているのでスタック処理は基本的に使えないのです。
スマホの動画画質の基本は単一露光HDR技術へ そしてマイクロフォーサーズも単一露光HDR技術を搭載している
では、動画の高画質化に関してスマホが全く撃つ手が無いのかというとそうではありません。最近のスマホは複数の異なるゲインで読み出しを行い、合成する技術がかなり前から搭載されています。ここでは単一露光HDR技術と呼ぶことにします。
ある時から、スマホでの動画撮影時においてハイライトの飛びがやたら収まった時期があります。それは下記記事を執筆したiPhone12くらいからだったと記憶しています。
同機能(異なるゲイン読み出しによる合成技術)は最近になってLUMIX GH7やG9PROII、LUMIX S1IIでもダイナミックレンジブーストとして単一露光HDR技術搭載されるようになりました。なお、この技術のオリジナルはあのARRI Alexaだと思います。CANONもDGOセンサーとして発売していた時期もありますが、今はどちらかというと(色々問題があったのか分かりませんが)DGOは影を潜めています。

詳しくはこの記事で解説を書いてますのでご興味のある方はどうぞ
では、この技術を使えば、スマホの高感度の描写が格段に上がるか?というと実はそうでもありません。この技術はどちらかというとハイライトの伸びを拡張する思想の技術に寄っているからです。ですが、高感度側のゲイン(HCG)を高めに設計しつつ低感度側(LCG)でハイライトを補うことで高感度の耐性を上げることは実際には少しはできるので実際には高感度耐性も向上しています(トータルS/Nが上がればそれだけ高感度画質に振り直すことができるイメージです)。
そして、同技術を使ったマイクロフォーサーズカメラ(LUMIX GH7 / G9PROII )や話題のコンデジLUMIX L10も同様に低照度の画質向上を実現しています。
というわけで、動画画質に関して私が持っているイメージを図にしたのが下記です。

こう描くと色々怒られるかもしれませんが、私の独断イメージとして捉えてください
少し余談ですが、上記の単一露光HDR技術に加え、前述の通りiPhone 17では低照度下での動画撮影時はかなりのノイズリダクションがかかります。それは物理的に必ず発生するランダムノイズを完全に潰すほどの強い処理ですのでそれが不自然さを生んでしまいます。ですが、それが多くの人にとって「すごく綺麗」と思わせる処理だと思います。ただ、それは目の肥えた人にとってはかなり不自然なのです。
一方でフルサイズは?
実際に今のマイクロフォーサーズ(特にLUMIX GH7とG9PROII)の動画画質は正直な話、一昔前のフルサイズの画質を凌駕すると思います(被写界深度とかの話は置いておいて)。むしろハイフレームレート撮影の観点で言うならフルサイズよりも上になります。つまりスマホがマイクロフォーサーズの画質に追いついたのではなく、少なくとも動画画質においてはマイクロフォーサーズの画質はフルサイズに追いつきつつあると言う印象を持ちます。
確かに2023年以前(GH5)レベルの画質は今時の単一露光HDR技術搭載スマホで実現できつつあると思いますが、マイクロフォーサーズが単一露光HDR技術を搭載したことによってスマホとは隔世の差が再び生まれていると言う印象です。
ではフルサイズはこのままの動画画質向上技術を搭載してこないのか?と言う疑問が湧きますが、それに関しては先日書いた以下の記事につながります。
つまり、ソニーも動画画質に関してテコ入れをする気配があるということです。ソニーがα7RVIで搭載したデュアルゲイン撮影技術はまだ実験的な搭載ですが、おそらくはα7SIVを見越しての搭載なはずです。個人的にはこの技術をほぼ間違いなくα7SIVに搭載してくるものと睨んでいます。ま、そもそもLUMIX S1IIで搭載しているくらいですのでやらないはずは無いと思う。
マイクロフォーサーズで撮影した映像作例
ここ最近の撮影分も含め、マイクロフォーサーズで撮影した映像のリンクをいくつか貼っておきます。スマホでこのクオリティを達成する自信はありませんが、それでも水族館での撮影なら工夫次第でもうすこし品質は上げられると思うので近いうちにリベンジします。後日また記事しますが、さすがにどう工夫しようとここまでのクオリティは出ないかなと。。。
低照度下で撮影したクラゲ(LUMIX G9PROII使用)
望遠&マクロ撮影作例(LUMIX GH7使用)
夜間の高フレームレート撮影作例(LUMIX GH7使用)
フルサイズばりのボケを狙った撮影(LUMIX G9PROII+チートレンズ使用)
結局のところ言いたいことは
正直な話、小さいセンサーだから画質が悪いとかフルサイズが素晴らしいとか、どうでもいい話だと思います。私だってスマホで動画を撮る時も多いですし、フルサイズも使います。
今回の巨大な釣り針がなければこんなことを書くことはなかったと思います。ただ、スマホの画質は確かに向上していますが、少なくとも今時のマイクロフォーサーズの画質はが高いということを、もう少し世間に広まってくれれと思った次第です。トータルシステムとして小型でありながら安いコストでフルサイズ並みの品質が出せる。場合によってはフルサイズを凌駕する映像だって撮れるという事が少しでもわかってもらえたらと思います。
筆者:SUMIZOON
Facebookグループ一眼動画部主宰
Youtubeチャンネル STUDIO SUMIZOON の人
2011年よりサラリーマンの傍ら風景、人物、MV、レビュー動画等ジャンルを問わず映像制作を行うビデオグラファー。機材メーカーへの映像提供や映像関係メディアでレビュー執筆等を行う。Youtubeチャンネル「STUDIO SUMIZOON」登録者は1.4万人以上。Facebookグループ「一眼動画部」主宰。「とあるビデオグラファーの備忘録的ブログ」更新中。


