とあるビデオグラファーの備忘録的ブログ

ビデオグラファーsumizoonのブログ 一眼動画に関する機材や撮影方法を中心に情報を発信していきます。

ホタル(蛍)の動画撮影時にNGな設定、やるべき設定と動画撮影に適したカメラ

この時期になるとやたら検索される事がある動画やブログ記事があります。
それはホタルの動画撮影について。

そもそもホタルはスチルで撮影する人が圧倒的に多いと思います。ですが、かれこれ10年近く動画で撮る事をトライしています。

以前にも以下の様な記事をアップしていますが、割と手の込んだ撮影方法を書いてます。ですが、コレって結構手間がかかる方法だったりします。

最近はカメラの高感度性能が向上したおかげでそこまで手の手法をとらなくてもミラーレス一眼と明るい単焦点レンズさえあれば、かなり綺麗にホタルの動画を撮影することが可能になりました。なので手法も少し変化しています。

実は昨年撮影した映像が下記。複数カットのスタックこそしていますが、残照が残る明るい時間帯での撮影はせずにそこそこ見れる映像になっているかと思います。

www.youtube.com

昨年、ホタル動画撮影に一番使用したカメラは LUMIX S9だった

LUMIX S9は現行フルサイズカメラの中で最も安い部類のカメラです。厳密に言うともっと安いフルサイズカメラは存在しますが、高感度性能と解像度のバランスが非常によいイメージセンサーIMX410を搭載している現行機種のカメラの中ではかなり安いカメラだと言えます。
そして6Kの映像が撮れるという意味では最安のカメラでしょう。IMX410を搭載したカメラはSONY/NIKONからも発売されていますが、高解像度で撮れるメリットとシャドー階調性の良さは現状LUMIX S9が秀でていると思います。
(実際に昨年、センサーの全く異なるフルサイズカメラ3台(全て24MP以上)を使ってホタルの動画撮影をテスト・比較した結果、LUMIX S9がダントツで綺麗に撮れたという経験をしました)

上記動画の撮影時のメインのレンズはこれまた、フルサイズカメラとしてはかなり安い部類のレンズLUMIX S35mm F1.8です。

少し画角は狭くなりますが、3万円ほど安く買えるという意味では50mm F1.8もオススメかと思います。

とにかくLUMIX S9の良さは6Kの動画撮影が気軽にできながらも高感度耐性に強いことです。α7SIIIの次に強いと言って良いかと思いますし、α7SIIIには無いクロップ耐性があります。そして、それを実現しているのが先にも述べたイメージセンサーIMX410です(メーカーは明言してないけど、ほぼ間違いなくLUMIX S9はIMX410ファミリーを搭載しているはずです)。詳しくはこちらをどうぞ。

sumizoon.hatenablog.com

近く発売されるLUMIX S1IIのダイナミックレンジブースト時はLUMIX S9を超える優れたシャドー表現ができるものと思いますが、まだ発売されていませんのでね。

ホタルの動画はどうやって撮るか

ホタルの動画撮影ではいくつか私なりのセオリーがあります。動画のクオリティとは関係ないものを含めて列挙します。

AFの補助光は必ずOFFにする

ほとんどのミラーレスカメラにはAF補助光という機能があります。これは暗い中でもオートフォーカスが合いやすくするために被写体に光(オレンジだったり赤だったり緑だったりメーカーによって色は様々です)を当てる機能です。はっきり言ってこれはホタルの撮影でこれが光と、周りに対して超絶迷惑になります。この機能は暗い中でしか機能しないので、撮影現場で初めてAF補助光の存在を知ってあたふたする人もいるかもしれません。予め部屋を暗くして、この機能がOFFできているか確認しましょう。

(余談ですが、LUMIXではセルフタイマーの場合にもこのランプが点灯します。ですが、現状このランプをセルフタイマーのカウントダウン時にOFFをさせる方法はありません。パナソニックさん今回の記事には直接関係ないですが、せめてサイレントモードの時のセルフタイマーではランプが強制的に消灯するようにしてほしい。。。)

後述する様に撮影はMF(マニュアルフォーカス)が前提ですが、LUMIXの場合、MFの状態でもワンプッシュAFを使用する事ができます。その際に不用意に補助光が光ることを避ける意味でも、AF補助光はOFFにしましょう。

背面液晶はナイトモードにする

動画撮影に慣れている方であれば、背面液晶はナイトモードにすることをおすすめします。モードがなければ液晶の輝度は最低にし、撮影中は液晶を畳んでおくことで周囲に対して迷惑がかからないようにします。

なお、ナイトモードですが、被写体が非常に見にくいので慣れないうちは使わない方がいいかもしれません。その場合、通常のモードで輝度を下げた状態で撮影することになりますが、くれぐれも周りに迷惑がかからないように気を配りましょう。

三脚を使う

絶対ではありませんが、後述する比較明合成を使った撮影をする場合には必須です。

オートフォーカスは使用しない

極端に暗い撮影現場だと、そもそもオートフォーカスなんてものはほとんど使い物にならないと思った方がよいです。仮にオートフォーカスで一時的にピントがあったとしてもコンティニュアスAF設定では極端に暗い中での撮影では確実に暴れます。これはどんなにAFが優秀なカメラでも当てはまると思います。なのでフォーカスばっかりはどうにか頑張って合わせてねとしか言えません。

もし撮影現場でピントを合わせる被写体がどうしても難しい様でしたら予めピントを合わせておくようにします。35mmF1.8のレンズの場合、30m以上離れた物体にピントを合わせれば概ね無限遠となります。また、50mmF1.8のレンズの場合は50m以上離れた物体にピントを事前に合わせれば無限遠となります。つまり、撮影地の背景が50m以上離れていて、その背景にピントを合わせたいなら事前に街灯とかでピントを合わせておくなどの対策が打てます(レンズのピントリング触ると終わるけど...)。

なお、この手法ですが、LUMIXの場合、レンズ位置メモリーをONにすることが必須です。

レンズ位置メモリーはカメラの電源をOFFにしてもピント位置を記憶し続けるモードです。LUMIXに限らずミラーレスカメラのほとんどは電源をOFFにするとピント位置がデフォルトの位置に戻る仕様ですので、撮影前にピントを合わせたとしても電源をOFFにしてしまうと全く意味がありません。それを回避するための設定がレンズ位置メモリーです。この設定は初期状態ではOFFになっていると思いますので、これを機にONにしておくと良いかと思います。

まぁ、つらつら書きましたが、実際の撮影地では周りが全く何も見えないという状況は極めてレアだと思いますので、どうにか撮影地でピントを合わせる方法が良いと思います(LUMIXの場合、ライブビューブーストという機能を使うと暗い中でもMFがラクですのでお試しを)。

ISO、絞り、シャッタースピード、ホワイトバランスは固定して撮影する

蛍の動画に限ったことではないですが、特に蛍の動画ではISO、絞り、シャッタースピードは固定。つまりマニュアル露出で撮影します。ではこのISO、絞る、シャッタースピードをどうやって決定するかですが、それは次に説明します。

動画撮影ではマニュアル露出で多くの方が撮影されていると思いますので、「今更かよ」と思われるかもしれませんが。忘れがちなのがWB(ホワイトバランス)です。これをオートにしてしまうと、状況によって色が変わってしまうことがありますので必ずAWB(オートホワイトバランス)を使わずにケルビンを固定します。私の場合は夜であれば💡(電球)に固定することが多いです。ちょっと青すぎるという方は4000K付近で微調整してみると良いかと思います。

絞り開放、シャッタースピードはフレームレートに合わせて設定

なお、蛍の撮影の場合、絞りは開放か絞ってもほんの少し絞る程度にします。

シャッタースピードは30p撮影の場合は1/30)で設定。24p撮影の場合は1/25に設定。というようにフレームレートギリギリのシャッタースピードに設定することで露出を稼ぎます。なお、LUMIXの場合は30pでもシャッタースピードを1/10のように設定できてしまう機種もありますが、それだと30p動画として書き出してしまうとカクカクした映像になってしまいます。なのでシャッタースピードはフレームレートに合わせて上記のように設定することから始めてみましょう。

この時点で絞りとシャッタースピードは決定されます。つまり35mm F1.8のレンズを使って

・30pの動画を撮影するなら

シャッタースピード:30分の1秒(1/30)

・24pの動画を撮影するなら

シャッタースピード:25分の1秒(1/25)

です。異論はあるかもしれませんが、私ならこの設定一択です。

ではISOはどう決めるかというと、うっすらと遠い光に照らせれているとか月明かり程度であればISO12800〜16000程度まで上げます。少なくともF値とSSが決まっているので何カットか撮ってみてしっくりくる状態にISO感度を設定するといった方法で良いかと思います(慣れれば露出系やウェーブビューモニタで判断できますが)。なお、後述するように背面液晶で撮れた映像で露出を判断するのは結構危険です。帰ってPCで見ると暗い。。。という事になりがちです。暗い中で目が慣れると、背面液晶に映る映像というのは十分な露出になっていると目(というか脳)が勘違いするためです。

シャドーの階調を重視するならLog撮影で

蛍の撮影の場合、蛍が主役と思いがちですが、背景がしっかり映っていないと単なる点が移動しているだけの映像になります。なので、なるべく背景の情報が映っていることが私の目標としていることです。シャドーに埋もれがちな背景ですが、Log撮影することでその状況を映すことができると考えています。通常のスチルガンマの場合、ある程度の暗さ以下のレベルは黒にクリップされる事が多いです。なので私の場合、なるべくシャドーの情報を引き出せるLogガンマの撮影を行う様にしています。背景が映る代償としてノイズが映ることもありますが、そこの処理は今回は割愛します。

でも、これはグレーディングにある程度なじみのある人でなければ難しい側面もあります。なので、Log撮影が難しい方の場合、CIneLikeガンマなどなるべくコントラストが弱い(というかシャドーの締まりが緩いプロファイル)を選ぶことをお勧めします。

できれば4Kを超える高解像度で撮影する

可能であれば6K30pや6K24pで撮影するようにします。これは後処理でのクロップ耐性やノイズリダクションの相性を想定したものです。経験上4Kで撮影するよりも6Kで撮影して、編集時に画質調整したほうが仕上がりがよいことが多いです。

背面液晶の明るさで露出を判断しない

星景写真や蛍写真もそうですが、背面液晶の明るさだけで判断すると露出が不足するケースがあります。というか、多くの方が経験すると思います。露出計やウェーブビューやヒストグラムで判断できる方であれば良いのですが、初心者のうちは失敗しがちです。なので、自分がちょうどいいと思った感度から少し感度を上げた撮影を、追加で行うと良いかもしれません。
例:自分がISO6400でちょうどいい、と思ったらISO8000やISO12800も念の為撮影する。

ホタルの数を増やす方法

これは編集で飛翔している蛍の数を増やす方法です。まぁスチルの比較明合成と同じ手法です。詳しくは下記の記事をどうぞ

この撮影は三脚の撮影が必須です。なお、上記記事では比較的残照がある明るい時間帯に撮影をしておいて、それを含めて明合成する方法を紹介していますが、ISO12800が普通に使えるカメラの場合はその限りではありません(もちろん被写体の明るさにも依ますが)。
むしろ私も面倒なのでこの撮影方法は最近は行っていません(面白い撮影方法ではありますが、手間と時間がかかりすぎるためです)。なので同じ時間帯に撮影した複数のカットを明合成する手法で以下の映像は撮影しました。

動画撮影に不向きな条件

前述の様にこの記事でのホタルの撮影は比較明合成を前提としています。ですがこの方法には弱点が一つあります。それは「風」です。
比較明合成をしたときに例えば木の葉っぱが揺れている状態のカットを複数スタック(明合成)すると確実に「合成した感」が出ます。なんとも気持ち悪い映像になるのです。
ワンショットですんごい数のホタルがとんでいれば少々風が吹いても問題ないのですが、明合成を前提とした撮影の場合、木々が揺れるほど風の吹いている条件での撮影は避けるべきかと思います。まぁ、風が吹いている時はホタルもあんま飛ばないんですけどね。

また、街灯などで照らされている箇所での撮影も基本的には避けるべきシチュエーションです。ホタルの光と背景が同居してしまい、全く絵にならない映像になります。なので、目を凝らせば背景が見える程度か、うっすら背景が見える背景のシチュエーションを探して撮影するのが吉。と思っています。

 

というわけで、私なりのホタル動画の撮影方法を紹介しました。参考になれば幸いです。
書き終えて見返したら普段書いていることと変わりばえしない内容だったなと....

あと、完全に余談ですが、LUMIX S9はスチル撮影時にカメラ内比較明合成の機能「ライブビューコンポジット」は使えません。これはS9にメカシャッターが搭載されておらず、物理シャッターを閉じてのダークフレーム減算(面引き)処理が物理的に出来ないために機能を意図的に外しているものと思われます。とは言えダークフレーム減算をしないでも良いくらいに長秒特性が良いのでライブビューコンポジットを搭載してくれてもいいのにねぇ、と思わんでもない。もしくは、途中でレンズキャップ閉める、黒い布で覆ってください。という指示(ダイヤログ)をだしてくれれば、面引きできるはずなので実装して欲しい人は(ニッチ過ぎるけど)居そうな気がします。

とは言えコンポジット(スチルの比較明合成)はPC上で行うのが一般的な処理なので特に困らないのですが。

 

 

筆者:SUMIZOON
Facebookグループ一眼動画部主宰
Youtubeチャンネル STUDIO SUMIZOON の人

2011年よりサラリーマンの傍ら風景、人物、MV、レビュー動画等ジャンルを問わず映像制作を行うビデオグラファー。機材メーカーへの映像提供や映像関係メディアでレビュー執筆等を行う。Youtubeチャンネル「STUDIO SUMIZOON」登録者は1.4万人以上。Facebookグループ「一眼動画部」主宰。「とあるビデオグラファーの備忘録的ブログ」更新中。

 

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